本気で国の未来をビットコインに賭けたウクライナ...その内情と勝算
KYIV’S BET ON BITCOIN
だがマイニング作業の消費電力は膨大で、昨今は多くの国の政府や専門家が、仮想通貨の環境負荷は高過ぎると警鐘を鳴らしている。米電気自動車大手のテスラはビットコインでの支払い受け付けを停止した。こんな状況でも、仮想通貨の将来性に賭けるのは正しい選択なのか?
正しい、と信じる都市がある。スイス中部のツークだ。今年2月から仮想通貨による納税を可能にするなど、ツークはさまざまな施策で仮想通貨ビジネスを呼び込み、今やクリプトカレンシー(仮想通貨)にかけて、シリコンバレーならぬ「クリプトバレー」と呼ばれている。昨年9月時点で人口13万人足らずの都市だが、今は実に439もの仮想通貨関連企業がひしめいている。
「ツークやウクライナが仮想通貨の企業を誘致するのは正しい」と言うのは、ワルシャワ経済大学のブロックチェーン研究者カタジナ・チウパ。「仮想通貨には未来があり、誘致すればそこに根付く」
ただしスイスは国際的な汚職監視団体、トランスペアレンシー・インターナショナルの20年の腐敗認識指数で第3位、透明性が非常に高い国だ。しかも昔から匿名の金融取引や秘密口座の扱いには慣れている。
ダークな面に対処できるか
それでも仮想通貨には、アナログな秘密口座とは異なる不正利用のリスクがある。取引の記録(ブロックチェーン)に実名を記入する必要がないので、どうしても犯罪絡みの送金に使われやすい。
保険仲介大手のマーシュ・アンド・マクレナンによれば、昨年上半期にサイバー攻撃の身代金としてハッカーに支払われた金額の98%はビットコインを使っていた。
こうしたダークな側面に、ウクライナは対処できるだろうか。悲しいかな、この国の腐敗認識指数は昨年段階で117位だ。もちろん国民は腐敗の一掃を願っており、だからこそ一昨年には政治経験ゼロのウォロディミル・ゼレンスキーが大統領に選ばれた。しかし透明性を高める改革は遅々として進まない。
これにはIMFも懸念を表明している。ただでさえ不透明な国に、あえて不透明な金融取引を求める人が集まればどうなるか。「腐敗で悪名高い国で、仮想通貨を使った匿名の取引が自由にできるとなれば、マネーロンダリング(不正資金の洗浄)の温床となる可能性が高い」と前出のチウパは指摘する。
ハイテク分野の起業家からデジタル転換省副大臣に転じたボルニャコフは、もちろんそんなリスクを承知している。
「新たな技術革新は往々にして犯罪者に利用される」とボルニャコフは言う。「だがリスクと同時に可能性も考慮すべきだ。仮想通貨が犯罪者に利用されることは十分に承知している。しかし、現金だって犯罪に使われている」