イラン人口の1/3が苦しむ水不足だが...中東の対立解消へのチャンスにできる
IRAN'S BIGGEST PROBLEM IS WATER
だが当然のことながら、イランも湾岸アラブ諸国も水政策に安全保障の観点を持ち込みがちだ。例えばイランでは、環境保護の活動家が治安当局から厳しく監視され、スパイ容疑を掛けられることもある。
イランと湾岸アラブ諸国の間には政治的・宗教的な緊張関係があり、地域の環境問題で協力関係を築くことはかなり難しい。だが、何もしないのは最悪の選択だ。
水産資源の乱獲から急速な沿岸開発、塩分濃度の上昇まで、ペルシャ湾の生態系の問題には関係諸国が一致して対処する必要がある。イランも湾岸アラブ諸国も、今は地球環境に有害な石油の輸出に依存しているが、気候変動の影響を受けやすい国であるのも事実だ。もともと気温は高いし、水資源は乏しい。
「気候難民」が生まれる恐れ
既にどの国も、石油依存から脱却するために産業構造の多角化に取り組んでいる。だが、環境対策には一層の努力が必要だ。中東では記録的な気温上昇と水不足によって土地が農業に適さなくなり、地域内で膨大な数の人々が「気候難民」と化す恐れもある。
政治的な緊張が解消される見込みはないから、環境面での協力のハードルは高い。しかし水不足が一段と深刻化するなか、イランとアラブ首長国連邦(UAE)そしてサウジアラビアは徐々に、共通の問題に共同で対処する道を探し始めている。
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は4月下旬にイランとの関係改善を呼び掛け、イラン政府もこれを歓迎した。中東ではどうしても地政学的な対立に目が行きがちだが、地域の環境問題は協力関係を築く上で最も争点が少ない分野と言えるだろう。
ペルシャ湾岸の地政学的紛争とは異なり、当事者間の環境面の利益はゼロサムではない枠組みで構築できる。一国だけで問題を解決することはできないし、問題解決による利益が一国だけにもたらされることもない。同時に、水をめぐる協力が他の問題に関する有意義な協力の道を開く可能性もある。
元米国務長官のジョン・ケリーを気候変動問題担当大統領特使に指名した米バイデン政権は、イランとアラブ諸国の環境問題についての協力を促す機会をつくり、外交的影響力を行使できる立場にある。
ケリーは4月にUAEを訪問し、気候変動に関する地域対話に出席した。その場にはUAEとクウェート、エジプト、バーレーン、カタール、イラク、ヨルダン、スーダン、オマーンの代表はいたが、イラン代表の姿はなかった。
これではいけない。大国イランの参加なしで、ペルシャ湾に面する全ての国に共通する環境問題を解決できるはずがない。
バイデン政権がイランと互恵的な関係を築く方向を模索し、湾岸アラブ諸国もイランとの緊張緩和を目指し始めた今こそ、水問題と気候変動対策で協力すべきだ。それが全ての関係国の利益となる。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら