最新記事
イラン

イラン人口の1/3が苦しむ水不足だが...中東の対立解消へのチャンスにできる

IRAN'S BIGGEST PROBLEM IS WATER

2021年6月11日(金)20時20分
アレックス・バタンカ(中東問題研究所上級研究員)

だが当然のことながら、イランも湾岸アラブ諸国も水政策に安全保障の観点を持ち込みがちだ。例えばイランでは、環境保護の活動家が治安当局から厳しく監視され、スパイ容疑を掛けられることもある。

イランと湾岸アラブ諸国の間には政治的・宗教的な緊張関係があり、地域の環境問題で協力関係を築くことはかなり難しい。だが、何もしないのは最悪の選択だ。

水産資源の乱獲から急速な沿岸開発、塩分濃度の上昇まで、ペルシャ湾の生態系の問題には関係諸国が一致して対処する必要がある。イランも湾岸アラブ諸国も、今は地球環境に有害な石油の輸出に依存しているが、気候変動の影響を受けやすい国であるのも事実だ。もともと気温は高いし、水資源は乏しい。

「気候難民」が生まれる恐れ

既にどの国も、石油依存から脱却するために産業構造の多角化に取り組んでいる。だが、環境対策には一層の努力が必要だ。中東では記録的な気温上昇と水不足によって土地が農業に適さなくなり、地域内で膨大な数の人々が「気候難民」と化す恐れもある。

政治的な緊張が解消される見込みはないから、環境面での協力のハードルは高い。しかし水不足が一段と深刻化するなか、イランとアラブ首長国連邦(UAE)そしてサウジアラビアは徐々に、共通の問題に共同で対処する道を探し始めている。

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は4月下旬にイランとの関係改善を呼び掛け、イラン政府もこれを歓迎した。中東ではどうしても地政学的な対立に目が行きがちだが、地域の環境問題は協力関係を築く上で最も争点が少ない分野と言えるだろう。

ペルシャ湾岸の地政学的紛争とは異なり、当事者間の環境面の利益はゼロサムではない枠組みで構築できる。一国だけで問題を解決することはできないし、問題解決による利益が一国だけにもたらされることもない。同時に、水をめぐる協力が他の問題に関する有意義な協力の道を開く可能性もある。

元米国務長官のジョン・ケリーを気候変動問題担当大統領特使に指名した米バイデン政権は、イランとアラブ諸国の環境問題についての協力を促す機会をつくり、外交的影響力を行使できる立場にある。

ケリーは4月にUAEを訪問し、気候変動に関する地域対話に出席した。その場にはUAEとクウェート、エジプト、バーレーン、カタール、イラク、ヨルダン、スーダン、オマーンの代表はいたが、イラン代表の姿はなかった。

これではいけない。大国イランの参加なしで、ペルシャ湾に面する全ての国に共通する環境問題を解決できるはずがない。

バイデン政権がイランと互恵的な関係を築く方向を模索し、湾岸アラブ諸国もイランとの緊張緩和を目指し始めた今こそ、水問題と気候変動対策で協力すべきだ。それが全ての関係国の利益となる。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 イラン革命防衛隊
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月24号(3月17日発売)は「イラン革命防衛隊」特集。イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、イラン戦争の目標達成に近づく=トランプ氏

ワールド

イラク、外国企業運営の油田で不可抗力宣言 ホルムズ

ワールド

英、米軍による基地使用承認 ホルムズ海峡攻撃巡り 

ビジネス

米国株式市場=大幅続落、中東緊迫の長期化がインフレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「嘘でしょ!」空港で「まさかの持ち物」を武器と勘…
  • 9
    将来のアルツハイマー病を予言する「4種の先行疾患」…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中