イラン人口の1/3が苦しむ水不足だが...中東の対立解消へのチャンスにできる
IRAN'S BIGGEST PROBLEM IS WATER
この間、イラン政府は急増する需要に追い付こうとするばかりで、需要の抑制にはほとんど取り組んでこなかった。入手可能な最新の数値によれば、イランの国民1人当たり水使用量(食品の製造などに使われた水を含む)は1日5100リットルで、水不足の悩みがないフランスやデンマークより多い。さらに水の供給を増やすには、海水の淡水化を一段と進めるしかない。
だが、イランはこの分野で出遅れている。湾岸諸国では既に約850の淡水化プラントが稼働しており、アラブ諸国はいずれも水供給量の55〜100%を淡水化(脱塩水)で賄っている。対するイランの水供給量に占める脱塩水の割合はまだ約0.1%で、イラン政府はこの割合を増やしたい考えだ。
しかし海水の淡水化には、環境への影響が懸念されている。淡水化によって生じるブラインと呼ばれる濃縮塩水は海に排出されるから、海の生態系に悪影響がもたらされる。しかも海水の淡水化には多くのエネルギーが使われるため、温室効果ガスの排出増加にもつながる。
湾岸地域共通の機関がない
それでも、淡水化プラントは今後も増え続ける。ある試算によれば、ペルシャ湾岸のアラブ諸国では新たに1000億ドル規模の淡水化プロジェクトが計画されている。もちろん、これとは別にイラン(その人口は湾岸諸国の合計をはるかに上回る)の増設計画がある。
この「淡水化競争」を展開するに当たって、資金面でゆとりのあるアラブ諸国は最新鋭の、すなわち環境へのダメージがより少ない淡水化技術を導入することが可能だ。
だが経済制裁に苦しむイランは、旧式の淡水化技術しか使えない。そのため現在進行中および計画中の淡水化プロジェクトが環境に及ぼす悪影響を最小限に抑える能力も、アラブ諸国に比べて限られるだろう。ペルシャ湾の生態系は共有の資産だから、イランが最新の淡水化技術やノウハウにアクセスできなければ、ペルシャ湾の南側のアラブ諸国にも、その影響が及ぶことになる。
ペルシャ湾岸の全ての国が水不足の問題を抱えているにもかかわらず、この問題に共同で対処する地域的な機関は存在していない。今の湾岸諸国には数日分の飲料水を備蓄しておく能力しかないのだが、いざ水の供給が危機的状況に陥った場合に、これらの国々が頼れる共通の多国籍機関はない。
これまで水問題に対処するために創設された唯一の機関は、1979年に生まれた湾岸海洋環境保護機構(ROPME)だが、現在は機能していない。ROPMEを復活させるか、あるいはこの地域の環境問題への対処を一括管理する同様の国際機関を立ち上げるのか、議論はまだまとまっていない。
現状では海水の淡水化を進める以外に、水資源を確保する方法はないということだ。そうであれば、淡水化プロセスがもたらす副作用を最小限に抑える方法など、水に関する政策や安全保障の問題については関係諸国が協調して対処すべきだ。それが地域全体の利益となる。