最新記事
イラン

イラン人口の1/3が苦しむ水不足だが...中東の対立解消へのチャンスにできる

IRAN'S BIGGEST PROBLEM IS WATER

2021年6月11日(金)20時20分
アレックス・バタンカ(中東問題研究所上級研究員)

210615p43_ir02.jpg

アメリカのケリー気候変動担当大統領特使(左端)はアラブ諸国とイランの協力を促進するキーマンとなるか(4月、UAE) WAM-HANDOUT-REUTERS

この間、イラン政府は急増する需要に追い付こうとするばかりで、需要の抑制にはほとんど取り組んでこなかった。入手可能な最新の数値によれば、イランの国民1人当たり水使用量(食品の製造などに使われた水を含む)は1日5100リットルで、水不足の悩みがないフランスやデンマークより多い。さらに水の供給を増やすには、海水の淡水化を一段と進めるしかない。

だが、イランはこの分野で出遅れている。湾岸諸国では既に約850の淡水化プラントが稼働しており、アラブ諸国はいずれも水供給量の55〜100%を淡水化(脱塩水)で賄っている。対するイランの水供給量に占める脱塩水の割合はまだ約0.1%で、イラン政府はこの割合を増やしたい考えだ。

しかし海水の淡水化には、環境への影響が懸念されている。淡水化によって生じるブラインと呼ばれる濃縮塩水は海に排出されるから、海の生態系に悪影響がもたらされる。しかも海水の淡水化には多くのエネルギーが使われるため、温室効果ガスの排出増加にもつながる。

湾岸地域共通の機関がない

それでも、淡水化プラントは今後も増え続ける。ある試算によれば、ペルシャ湾岸のアラブ諸国では新たに1000億ドル規模の淡水化プロジェクトが計画されている。もちろん、これとは別にイラン(その人口は湾岸諸国の合計をはるかに上回る)の増設計画がある。

この「淡水化競争」を展開するに当たって、資金面でゆとりのあるアラブ諸国は最新鋭の、すなわち環境へのダメージがより少ない淡水化技術を導入することが可能だ。

だが経済制裁に苦しむイランは、旧式の淡水化技術しか使えない。そのため現在進行中および計画中の淡水化プロジェクトが環境に及ぼす悪影響を最小限に抑える能力も、アラブ諸国に比べて限られるだろう。ペルシャ湾の生態系は共有の資産だから、イランが最新の淡水化技術やノウハウにアクセスできなければ、ペルシャ湾の南側のアラブ諸国にも、その影響が及ぶことになる。

ペルシャ湾岸の全ての国が水不足の問題を抱えているにもかかわらず、この問題に共同で対処する地域的な機関は存在していない。今の湾岸諸国には数日分の飲料水を備蓄しておく能力しかないのだが、いざ水の供給が危機的状況に陥った場合に、これらの国々が頼れる共通の多国籍機関はない。

これまで水問題に対処するために創設された唯一の機関は、1979年に生まれた湾岸海洋環境保護機構(ROPME)だが、現在は機能していない。ROPMEを復活させるか、あるいはこの地域の環境問題への対処を一括管理する同様の国際機関を立ち上げるのか、議論はまだまとまっていない。

現状では海水の淡水化を進める以外に、水資源を確保する方法はないということだ。そうであれば、淡水化プロセスがもたらす副作用を最小限に抑える方法など、水に関する政策や安全保障の問題については関係諸国が協調して対処すべきだ。それが地域全体の利益となる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

不明兵捜索、時間との戦い イランの猛攻耐えた米軍救

ワールド

トランプ氏、イランに合意期限「6日」 米戦闘機乗員

ワールド

米、イランで不明の戦闘機乗員救出 トランプ氏「史上

ワールド

イラク南部の巨大油田に攻撃、3人負傷 イラン国境に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「攻撃的知能」を解剖する
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 8
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 9
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 10
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 7
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 8
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 9
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 10
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中