最新記事
イラン

イラン人口の1/3が苦しむ水不足だが...中東の対立解消へのチャンスにできる

IRAN'S BIGGEST PROBLEM IS WATER

2021年6月11日(金)20時20分
アレックス・バタンカ(中東問題研究所上級研究員)
イラン南部の湖

イラン南部の湖 CAREN FIROUZ -REUTERS

<ペルシャ湾岸諸国の中でイランは海水淡水化で出遅れている。米バイデン政権が一役買えば全ての国に利益がもたらされる>

かつて偉大なペルシャ文明を生んだ地が、いま干上がろうとしている。今年のイランは50年来の深刻な干ばつに見舞われている。総人口約8500万人のうち、約2800万人には水が足りない。地域としては主に中部と南部。都市部の住民も農業地帯も悲鳴を上げている。

苦境に立たされているのはイランだけではない。世界で最も水資源の乏しい17カ国のうち、12カ国はペルシャ湾の沿岸諸国を含む中東・北アフリカにある。水資源の問題は地域全体の問題だ。ペルシャ湾の北に位置する大国イランと、南西側を占めるアラブ諸国は水の安全保障で協力すべきだ。そうすれば得られるものは多い。できなければペルシャ湾の生態系も脅かされる。

水の問題なら、政治的・宗教的な思惑の違いを超えて協力しやすいだろう。アメリカも積極的に協力を後押しすべきだ。ジョー・バイデン大統領の政権は気候変動への取り組みを最優先課題としているのだから。

この10年間、イラン政府は深刻化する水不足の問題に対処するため、多くの政治的・財政的資源を投入してきた。海水の淡水化施設を増やすための新構想や、水不足の深刻な中部にペルシャ湾から水を運ぶ計画などだ。この国家的なプロジェクトは既に進行中で、主要な給水路を4本造り、淡水化施設も増設するという。総額2850億ドルもの資金を投じて2025年までに完成させる計画で、約7万人分の雇用創出効果もあるとされる。

経済制裁が悪影響を及ぼす

淡水化された水は、重工業やイランの広大な農業部門に供給される(農業部門はイランの水使用量の90%を占める)。これが実現すれば貴重な地下水をくみ上げずに済むので、地方の農民・放牧民も水に困らなくなる。そうすれば、地方から都市部への人口移動の波を止めることもできるだろう。水不足は既に一部の地域で、住民間の対立や住民と治安部隊の衝突を招いている。今のイラン政府にとって、水問題はさまざまなレベルで重要な政策課題だ。

外交問題とも関連している。水不足の深刻化は度重なる干ばつだけが理由ではない。背景には、アメリカによる容赦ない経済制裁の発動もある。そのせいでイラン政府の資金調達力や、水処理の最新技術の入手は大幅に制限されている。

一方で、アメリカの制裁によって石油の輸出先を失ったイラン政府は、別の産業分野の振興を急いでいる。石油化学や鉱業、製鉄などだ。これらの産業にはアジア諸国、とりわけ中国が熱い視線を注いでもいる。

しかし、いずれの産業も大量の水を使う。多角的な産業の振興は工業用水の需要を大幅に増加させるのだ。イランが相次ぐ経済制裁を受ける前の2000年には、工業・鉱業部門で使用される水資源は国全体の約1.2%にすぎなかった。しかし、21年には3%に達すると予想されている。重工業が盛んな中部の都市イスファハンでは、現状でも地域の河川が枯渇寸前となっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中