最新記事

製薬

アルツハイマー新薬の、バラ色とは言えない評判とコスト

Alzheimer's Drug Thought to Cost Up to $50K for 1 Year Approved by FDA

2021年6月8日(火)13時48分
レベッカ・クラッパー

アルツハイマー病については長年、製薬業界が何十億ドルもの研究費用をかけて開発に取り組んできたものの、成功には至らなかった。今回FDAが新薬を承認したことで、過去に複数の製薬会社が棚上げにした同様の治療薬の開発に、再び活発な投資が行われることになる可能性が高い。

新薬は生きた細胞からつくられており、診療所や病院で点滴投与を行わなければならない。最も一般的な副作用は脳の炎症だが、多くの場合はそれによって症状や長期的な問題が引き起こされることはないと臨床試験で示された。

FDAによる今回の決定を受けて、治療困難な症状の治療を評価する上での基準をめぐる、長年の議論が再燃している。アルツハイマー病の患者やその家族を代表する複数の組織は、新たな治療法はどのようなものであれ(たとえ治療効果がわずかでも)承認されるべきだと言っている。だが多くの専門家は、今回の新薬承認は危険な前例をつくり、効果が疑わしい治療にも扉を開くことにつながりかねないと警告している。

2020年11月には、FDAの外部の専門家委員会が、今回の新薬の有効性について懐疑的な見方を示していた。同委員会は、バイオジェンが提出した一つの臨床試験の複数のデータについて、それが薬の有効性を示しているかどうかという問いに反対票を投じた。

臨床試験もいったん中止

バイオジェンとエーザイは、2019年にアデュカヌマブに関する2つの臨床試験を中止していた。アルツハイマー病患者の認知機能や身体機能の低下を遅らせるという目標を達成できる可能性が低いと判断したためだ。

だがその数カ月後、両社は一転、臨床試験のひとつについて新たに分析を行ったところ、高容量を投与した場合には効果が認められ、FDAからも承認申請が可能だとの助言を受けたと発表した。両社の研究者たちは、アデュカヌマブに有効性が認められないという当初の判断は、一部の患者が、アルツハイマー病の進行を遅らせるのに十分な量の薬剤投与を受けていなかったことが理由だったと説明した。

だが投与量の変更と両社による事後分析で、臨床試験の結果の解釈が難しくなり、FDAの外部委員会を含む多くの専門家の疑念を招くことになっている。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ロのキーウ攻撃を非難 「ウラジーミル、

ビジネス

米新規失業保険申請6000件増、関税懸念でも労働市

ビジネス

米中古住宅販売、3月5.9%減 需要減退で一段低迷

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中