ビットコイン相場で話題の「マイニング(採掘)」って何?

2021年6月3日(木)17時10分
高山武士(ニッセイ基礎研究所)

3――「マイニング」とは何か

さて、ここまでビットコインのデータイメージについて大まかに説明してきた。ここからは、いよいよ「マイニング」について説明したい。


By convention, the first transaction in a block is a special transaction that starts a new coin owned by the creator of the block. This adds an incentive for nodes to support the network, and provides a way to initially distribute coins into circulation, since there is no central authority to issue them. The steady addition of a constant of amount of new coins is analogous to gold miners expending resources to add gold to circulation. In our case, it is CPU time and electricity that is expended.

上記は、ビットコインを考案したとされるサトシ・ナカモトの論文からの引用である7(太字・下線は筆者)。

-----
7 Satoshi Nakamoto, Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System


下線部分を意訳すれば、

「ブロック」を作成した人が「新しいコイン」を得る事ができ、この「新しいコイン」を安定して獲得し続けることは、採掘者が金を掘って金を流通させていくことに似ている。我々の(コインの)採掘ではCPUの時間と電力が使われる


となる。このサトシ・ナカモトの論文の比喩表現を用いて今日でも「ブロック」を作成する試みのことを「マイニング」と呼んでいると見られる。したがって、マイニングを理解するには、「ブロック」の作成について理解できれば良いことなる。そして、「ブロックが作成される」ことは、そこに含まれている「取引」の「承認」であるため、重要な仕組みである。

つまり、この「ブロック」作成の仕組みを理解することが、「AからBへの送金(移転)取引はどのように承認されているのだろうか、不正取引をどのように防いでいるのだろうか」の手がかりになる。

図表1に書いた「ブロック」では、「ブロック」を構成するものは数本の取引だけであったが、実際の「ブロック」にはより多くの情報が記載されている。図表5のように、「ブロックヘッダ」と呼ばれる部分を持ち、この部分がとりわけ重要で、いくつかの情報が付加されている。この情報は、具体的には「親ブロック(図表5の場合はブロック#1)ヘッダのハッシュ値」「マークルルート(Merkle Root)」「タイムスタンプ(Timestamp)」「採掘難易度(Difficulty Target)」「ナンス(Nonce)」である8。

-----
8 これらの先頭にソフトウェアのバージョン情報も付加される。

nissai20210603132204.jpg

一気に専門用語だらけになってしまったが、順に解説していきたい。

まず、「タイムスタンプ」は現在の時刻のことでイメージは湧きやすいと思われる。「マークルルート」は専門用語で聞きなれない言葉だと思われる。これも重要なデータだが、長くなるため、詳しい説明は割愛したい。簡潔に言えば「マークルルート」は「ブロック」に含まれる取引の束(図表5のブロック#2の場合は「取引3」~「取引5」)から得られる、これらの取引を要約した数値と言える。「採掘難易度」はブロック生成の難しさを表した数値である。そして「ナンス」については後述したい。

そして、先頭にあるハッシュ値は「データから算出した小さな値。各データを区別・表現する目的に用いる」(Wikipedia)などと解説されているが、ブロックチェーンを理解する上では重要な概念と思われるので、例(イメージだが)を挙げて説明してみたい。

そこで、ここでは次のような関数を考えてみる(なお、これはあくまでもハッシュ値のイメージのために筆者が勝手に作成したアルゴリズムで、ビットコインに使われているハッシュ値とは全く関係ない)。

nissai20210603132205.jpg

例えば、「12345」という数値に☆を適用してみる。まず各桁の数を足し合わせて「1+2+3+4+5=15」である。次にもとの数値をその15で割るので、「12345÷15=823あまり0」となる。したがって「12345」のハッシュ値(ここでは「☆値」と呼ぶことにする)は「0」となる。もとの数値を1だけ増やして「12346」として適用してみると、「1+2+3+4+6=16」となり「12346÷16=771あまり10」なので☆値は「10」である。このように、☆値は元の数値より小さく、元の数値を少し変えただけで☆値が大きく変わることがある。これは(☆値ではない)一般的なハッシュ値にも言える性質である。

さて、ここで再び図表5の「ブロック#2」を考えていこう。ヘッダを構成する「ブロック#1ヘッダのハッシュ値」「マークルルート」「タイムスタンプ」「採掘難易度」「ナンス」はすべて数字である。そこで例えば「ブロック#1ヘッダのハッシュ値」を「6」、マークルルートは「345」、タイムスタンプは「0525」、採掘難易度は「1」としてみよう9。

-----
9 親ブロックの数値は適当、マークルルートは「取引3・4・5」が含まれていることから、タイムスタンプは「5月25日」から、採掘難易度は「一番容易」ということから1の数値を選んだが、もちろん本物のビットコインのブロックヘッダに格納されている数値はもっと複雑である。ただし、いずれにしても数字の羅列である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中