ビットコイン相場で話題の「マイニング(採掘)」って何?

2021年6月3日(木)17時10分
高山武士(ニッセイ基礎研究所)

5――おわりに

さて、ここまで「マイニング」とそれに関連する疑問について説明してきた。

結局のところ、「マイニング」はハッシュ値の計算と、それが閾値以下("当たり")かという単純な試行の繰り返しである。そして、この(意味がないように思われる計算に)多くの電力が使われ、マイニングの電力消費量(142.9TWH(テラワットアワー))はノルウェーの消費電力(124TWH)を上回り、世界のデータセンターで消費されている電力(205TWH)に近づく勢いのようである24。

冒頭マスク氏が危惧したように、「ナンス」探しという単純計算の電力を生み出すために、多くの化石燃料が費やされているとすれば、気候変動リスクを懸念する立場としては看過できないところだろう。

なぜこの単純計算にこんなにも電力が使われるのだろうか。ナカモト・サトシの「ナンス」探しという単純計算と金の発掘との比喩表現を用いれば、なぜ金の発掘は行われるのだろうか、というころになろう。

理由のひとつは、それはマイニングで得られるビットコインの報酬が魅力的であるため、と言えるだろう。そして、この魅力度を高めているのは、ビットコインがドルなどの別の通貨と交換できる、商品が購入できる、といった点にもあると見られる(金の発掘が、儲かるから行われるのと同じである)。

そのため、現在のところ、ビットコインには相当な需要があり、その需要の高さに応じた電力が使われていると見られる(電力を利用しても、電力使用料がマイニングの報酬を下回れば儲けられる)。

せっかく電力を使うのであれば、もっと有用な計算に活用できないのかといった指摘もできると思う。ただし、ビットコインによる一見"無駄"に見える電力消費でも、"無駄"とは言い切れない面がある。それは、(必ずしも電力である必要はないが)コストのかかる仕事をしているために、後から書き換えることが大変で、それが「耐改ざん性」を高めているという特徴にある。コストがかからないと「マイニング」の意味がなく、大胆に言ってしまえば"無駄"な「マイニング」だから信頼性が高まっているのである(それがプルーフオブワークという概念であり、実際に、「電力使用量の大きさ≒耐改ざん性の高さ」がビットコインの魅力を高めている面があると思われる)。

仮に、ビットコインの需要が低下すれば、マイニングして報酬を得たいと思う人が少なくなるだろう。「ナンス」探しに使われる計算力(ハッシュレート)が低下すれば、発掘難易度が下がり、ブロックを作成するのに必要な電力も低下する(ビットコインと同じ仕組みで動いているが、ほとんど電力が使われていない他の「暗号資産」は多いとみられる)。

ただ、図表6で見た通り、現在のところそういった需要が低下する気配は見られない。ビットコインの価格は激しく上下に動いているが、マイニングの計算量は安定的に増えている(もちろん、CPU・GPUなどの性能が良くなっている面もあるだろうが、ビットコインの報酬がマイニング需要を激減させるほど低下していないという面も指摘できるだろう)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、対ロ制裁法案に署名へ 最終権限保持なら

ビジネス

エアバス、A350の大型派生機を現在も検討=民間機

ビジネス

ヤム・チャイナ、KFC・ピザハット積極出店・収益性

ビジネス

午前のドル155円前半、一時9カ月半ぶり高値 円安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中