民主主義は本当に危機にあるのか...データが示す「認知動員」の効果
DEMOCRACY IS NOT DYING
そもそも「民主主義への支持」という問い自体に問題がある。文化的な背景が違えば、人々が民主主義に抱くイメージは違ってくる。ミャンマーやキルギスでは、「統治者に従うこと」が民主主義に「不可欠」だと考えている人が40%を超える。同様にエチオピアやイランでは、「富の平等な分配」が不可欠だと考えている人が30%以上。一口に民主主義と言っても、解釈はこれほど異なるのだ。そうしたニュアンスの違いを無視して支持率を比べれば、今の流れを読み違えることになる。
筆者は国際プロジェクト「世界価値観調査」の何十年分ものデータを分析した。その結果、世界中で見られる社会・政治的な混乱や分断の下で「文化的な地殻変動」とも言うべき変化が起きていることが分かった。
ゆっくりと、だが着実に、個人の選択や機会の平等を重んじる解放的な価値観が、服従と同調をよしとする権威主義的な価値観に取って代わりつつある。この変化は今のところ欧米で最も顕著だが、程度の差はあれ、世界のあらゆる地域に及ぶ本質的にグローバルな潮流とみていい。
解放的な価値観は上昇傾向
調査のデータがあるほとんどの地域で解放的な価値観は上昇傾向にある。その結果、若い世代は民主主義の原則に傾倒していくはずだ。1960~2018年、これらの価値観の支持率は、中東では(他の地域に比べればペースが遅く限定的だが)24%から38%に上昇、ブラジルでは31%から51%に上昇した。世界をリードしているのは北欧諸国で、特にスウェーデンは筆者らの推計では45%から80%に上昇している。
何より、自由、権威、社会における個人の役割に関するこれらの基本的価値観を若い人々が受け入れれば、それに対応する世界観も持続する傾向がある。そうした考え方、感じ方が一時的ではなく生涯にわたって身に染み付くのだ。
制度というものは永続性を目指すので、大抵ほとんどの政治体制は変わらない。だが不変に見える独裁政治の下では、文化的変化が熱とエネルギーを蓄えじわじわと進行している。若い世代で解放的な価値観が台頭すれば、次第に政府の権威主義体制と個人の自由や自主性や機会を求めてやまない人間的欲求との間に構造的矛盾が生じる。
こうした政治体制と文化のずれはやがて増大するストレスにさらされる。例えば、ポルトガル、韓国、スペイン、台湾では、生活水準の向上と教育の拡大によって解放的な価値観が台頭し、大衆の民主化圧力が高まって独裁政権が打倒された。時とともに政権の構造が社会の価値観に対してあまりに非民主的になり、ずれが一層鮮明になるのだ。