最新記事

新型コロナウイルス

ワクチンvs変異株、パンデミックが想定以上に長引く可能性

BEWARE A WINTER SURGE

2021年5月29日(土)08時15分
フレッド・グタール(本誌記者)
新型コロナウイルス変異株(イメージ)

wildpixel-iStock.

<科学者たちはウイルスの進化を追跡してきた。「今あるワクチンは依然として有効だ。新たな変異には実験室で対応するしかない」と米ロスアラモス国立研究所のコーバー博士は言う(後編)>

※前編より続く:ワクチン接種進むアメリカで「変異株の冬」に警戒が高まる

今後の感染状況にまつわる不確実性を特定の変異株のせいにしてしまえば、新型コロナウイルスとの闘いの複雑性や困難さを見誤ることになる。

そもそもウイルスは変化する環境に適応し続けるものであり、変異株の出現はその過程のスナップショットにすぎない。

1年以上前のパンデミック発生時、科学者たちはこのウイルスの進化を追跡する作業を始めた。感染者から検体を採取してゲノム配列を確定し、データベースに登録して世界で共有したのだ。

その代表格である情報データベースGISAIDには、172カ国で採取された新型コロナウイルス感染者の検体140万件以上のゲノム配列が登録されている。問題は、どの配列の違いが新たな脅威となるかだ。

210601P18_CFY_04.jpg

ロスアラモス国立研究所のコーバー博士 COURTESY OF LOS ALAMOS NATIONAL LABORATORY

この問いに答えを出す役割を担う1人が、米ロスアラモス国立研究所(ニューメキシコ州)の計数生物学者ベッティ・コーバー。何十年も前からエイズウイルスの研究に携わってきた人物だ。

エイズウイルスは新型コロナウイルスよりもはるかに素早く変異する。しかし今は、エイズワクチンも治験段階に入っている。

コーバーは今般のパンデミックを受けて自身の引退を棚上げにした。そして今は、山と積み重なる新型コロナウイルスのゲノム配列とにらみ合って長時間勤務を続けている。

公衆衛生当局は当初、新型コロナウイルスは変異するのが遅いと言って一般の人々を安心させた。科学的には正しい見解だ。複製の正確さを確認する「校正」機能を持つため、そうでないウイルスよりは変異の確率が下がる。

しかし、新型コロナウイルスはエイズウイルスやインフルエンザと同様なRNAウイルスなので、変異を得意とする。それに、変異の速度は遅くてもウイルスの数が多い。

なにしろ感染者は1億人以上。変異を繰り返し、強い者が生き残って増殖する機会は山ほどある。

昨年3月から、コーバーは感染拡大に伴うウイルスの進化を追跡するツール作成に携わり、巨大な「進化系統樹」を作成して強力な変異株を特定する努力を続けてきた。

次なる課題は、数ある変異株との生存競争を勝ち抜く条件は何かを解明することだった。

成果が出るのは早かった。昨年の春、コーバーらは「懸念される変異株(VOC)」としてD614G変異を特定し、これにダグというニックネームを付けた。

ダグは最初に中国の武漢で出現したウイルスに比べて複製のスピードが速く、3カ月後には世界で支配的な変異株となっていた。調べてみると、感染力が強くなる変異が起きていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、2日にウィットコフ米特使とモスクワで会

ビジネス

英住宅ローン承認件数、10月は予想上回る 消費者向

ビジネス

米テスラ、ノルウェーの年間自動車販売台数記録を更新

ビジネス

英製造業PMI、11月改定50.2 約1年ぶりに5
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中