最新記事

シリア

シリア大統領選挙──アサド大統領が再選 得票率95%をどう捉える

2021年5月31日(月)15時30分
青山弘之(東京外国語大学教授)
シリアの首都ダマスカス

大統領選前のシリアの首都ダマスカスの様子(5月18日) REUTERS/Firas Makdesi

<シリアのアサド大統領が、得票率95%で再選を果たした。西側諸国の反応は選挙が自由、公正でないなど冷ややかだった>

シリアで5月26日に大統領(任期7年)選挙が実施され、現職のバッシャール・アサド大統領が2012年に公布された現行憲法のもとで、2014年に続いて2度目の当選を果たした。アサド大統領は、旧憲法(1973年公布)のもとでも2度(2000年、2007年)当選しており、今回の当選は通算で4度目となる。

ハマーダ・ハンムード人民議会(国会)議長が5月27日晩に行った記者会見での発表によると、有権者総数、投票総数などは以下の通り。

有権者総数(在外居住者を含む):18,107,109人
投票総数(在外投票を含む):14,239,140票
投票率:64.78%
無効票:14,000票(0.1%)

また、各候補の獲得票数は以下の通り。

バッシャール・ハーフィズ・アサド:13,540,860票(95.1%)
マフムード・アフマド・マルイー:470,276票(3.3%)
アブドゥッラー・サッルーム・アブドゥッラー:213,968票(1.5%)

なお、過去の選挙でのアサド大統領の得票率は、2000年が97.3%、2007年が97.6%、2014年が88.7%だった。

西側諸国の反応

アサド大統領の再選が確実視されるなか、西側諸国の反応は冷ややかだった。

米英仏独伊の外相は5月25日、選挙が自由、公正ではないとしたうえで、「選挙を違法と非難する市民社会団体、反体制派を含むすべてのシリア人の声を支持する」とする声明を発表した。27日には、ジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表が「真の民主的投票の基準を満たしておらず、紛争解決に資さない」と非難、トルコ外務省も「違法な特徴を有する」と非難した。

シリア政府の正統性を否定するこれらの国々の対応は予想通りではある。しかし、それは、シリアでの10年に及ぶ紛争に、人道、化学兵器使用阻止、「テロとの戦い」などといった正義を振りかざして介入を続けてきたにもかかわらず、アサド大統領を退陣に追い込むことも、シリア政府を崩壊させることもできなかった無力への言い訳にも聞こえる。

同時に、大統領選挙という主権にかかわる問題の正統性を一方的に否定する姿勢は、シリアをいかに見下しているのかを示してもいる。シリア政府が過去においていかなる過ちを犯したとしても、国民に寄り添うなどと主張し、執拗な内政干渉を行うことは、最上級の侮辱と傲慢以外の何ものでもない。西側諸国が、シリアだけでなく、多くのアジア・アフリカ諸国に対しても今もこうした姿勢をとり続けていることは、周知の通りだ。

シリアの将来はシリア人の総意のみを通じて決められる。ここでいう総意とは、「体制打倒」に象徴されるような一過性の出来事ではない。日々の政治的営為の積み重ねを通じて形成されるものである。大統領選挙が行われたことは、そうした積み重ねられる事実の一つであり、それを頑なに拒んで思考停止に陥れば、その意味を冷静に捉えることすらできない。

分断と占領・駐留のなかでの選挙

前回の大統領選挙は、シリア内戦がもっとも激しかった時期に行われた。各地では、シリア軍、シャームの民のヌスラ戦線やイラク・シャーム・イスラーム国(現在のイスラーム国)、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)の民兵である人民防衛隊(YPG)が熾烈な戦いを繰り広げ、多くの地域が政府の支配の外に置かれていた。

image001.jpg

2014年5月の勢力図:筆者作成


今回の選挙が実施された2021年5月においても、シリアは、政府、反体制派、PYDによって分断され、米国(および有志連合)、トルコ、イスラエルが領土の一部を占領、ロシア、そして「イランの民兵」と呼ばれる諸勢力が各所に部隊を駐留させている。しかし、シリア政府は、イドリブ県中北部を除く反体制派の支配地(いわゆる「解放区」)とユーフラテス川西岸のイスラーム国支配地を奪還し、トルコ国境に面する北東部をPYDと分有(共同統治、あるいは分割統治)するまでに勢力を回復した。大規模な戦闘も、2020年2月から3月にかけてのイドリブ県でのシリア・ロシア軍とトルコ軍・「決戦」作戦司令室(シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が主導)の交戦を最後に、1年以上にわたって発生していない。

image002.jpg

2021年5月の勢力図:筆者作成

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

1月米雇用、13万人増と1年超ぶり大幅増 失業率4

ワールド

米テキサス空港の発着禁止解除、対無人機システム巡る

ビジネス

26年度の米財政赤字は1.853兆ドルに拡大の見通

ワールド

ロシア、米主導「平和評議会」初の首脳会合に不参加=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 10
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中