最新記事

パンデミック

コロナ禍で帰国者続出 イタリアの華僑コミュニティー

2021年5月22日(土)12時33分

中国の方が安全

イタリアでは新型コロナによる死者が12万4000人を超えているが、中国で報告された死者は5000人に満たない。

だが、多くの中国系住民がこの街を離れたのは、感染の不安よりも経済的な困窮が原因だ。ロックダウンが繰り返される中で、イタリアの低コスト繊維産業が打撃を受けているからだ。

イタリアの経済活動は徐々に再開されているが、繊維産業で働く中国人労働者の多くにとってはすでに手遅れだ。

プラートで暮らす浙江省出身のジャーナリスト、フアン・ミャオミャオさんは、中国人コミュニティーの10%に当たる約2500人が昨年中に中国に戻ったと推測している。やはり市議会議員を務めるマルコ・ウォンさんは、この数字について「現実的だ」と評する。

公式データは現状に追いついていない。中国への帰国者がイタリア当局にその旨をわざわざ報告するとしても、数年先になりかねないからだ。

ウォンさんは「中国人コミュニティーでは、1980年代にここに来た人々ですら帰国について議論している」と語る。

「中国の経済は成長していると思われているし、イタリアでの状況と比較した場合、パンデミック対策の成功によって中国に対する肯定的な見方が強まっている」

イタリア経済は昨年、マイナス8.9%と急激に後退し、3月までの12カ月間で50万人もの雇用が失われた。

市議会の当局者は、プラートを離れる中国系住民の数が増加する一方、新たな転入者はほとんど見られないと話す。指標とされるのは、学校の在籍生徒数だ。

この当局者によれば、2019年までは、プラートの学校には毎年200人前後の中国人新入生が在籍していたという。だが2020年・2021年は「統計的に有意な数字はない、事実上ゼロ」と言う。

シャドーエコノミー

プラートの中国人コミュニティーがリセッションによる厳しい打撃を被ったのは、中国系住民の多くが非公式経済(シャドーエコノミー)で働いているためだ。これは、前年度の企業の納税申告書に基づく政府支援を受けられないことを意味する。

プラートのイタリア中国友好協会のルイジ・イェ会長は、「プラートの中国系企業の大半は非常に苦しんでいる」と語る。同協会では昨年、中国系住民800世帯に資金援助を提供した。

プラートの中国系住民は伝統的にお互いに助け合い、公共の福祉に頼ることは避けていた。だが、コロナ禍による貧困の深刻化に直面し、こうした「共助」の考え方は崩壊した。

市議会は昨年、中国系住民からの食糧配給の申請を449件、家賃補助の申請を218件受理した。2019年には、中国系住民からの家賃補助申請は1件もなかった。

中国人コミュニティーで住民保護協会を率いるルカ・ツォウさんは、「問題は、ここではもう仕事が無く、あるのは不安だけということだ」と語る。「多くの中国系住民がすでに街を離れたが、それ以外にも離れたいと思っている人は多い」

Silvia Ognibene(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中