絶えないアジア人差別 ドイツでは?
アジア系の49%がパンデミック中に差別
同プロジェクトの別調査では2020年10月〜11月、アジア系移民703人に対しオンラインで質問した。回答者の49%がこのパンデミック中に人種差別を経験したと答えている。うち、62%が言葉による侮辱を受け、11%が「押された」「唾を吐かれた」「消毒剤を噴霧された」などの身体的攻撃を受けた。
さらに、27%が医療診療所から拒否されるなど、制度的な人種差別を報告している。差別のほとんどは通りや地元の公共交通機関などの公共スペースで発生したが、店舗や学校などでもヘイト行為があったようだ。
コロナパンデミックが始まって以来、アジア人差別は国際的に増えている。たとえば米国では、2020年初めから2021年2月末までに、AAPI(アジア・太平洋諸島系アメリカ人)に対する人種差別的攻撃が約3,800件報告された。実際はおそらくそれをかなり上回るだろう。しかも、凶悪な事件が多いのは周知のとおりだ。
ドイツについては、連邦差別禁止庁への報告が前年比ほぼ2倍の約3,600から6,000件以上となった。とくに新型コロナ関連差別についての2020年報告の約25%(11月末時点で1,500件)の多くがアジア出身と思われる人々に対するものだった。(MEDIENDIENST)
言葉の差別に疎いドイツ人
1970年代から1980年代にかけて、韓国やフィリピンからの看護師が西ドイツに、ベトナムからの契約労働者が東ドイツに多数派遣されてきた。移民増加に伴い反外国人感情も高まり、1980年にハンブルクで極右勢力によりベトナム人2人が殺害されたほか、1991〜92年にかけて東独中心にヘイトクライムが多発した。
しかし、ユダヤ人差別の歴史があり、またトルコ系移民をはじめとするイスラム教徒との確執が深いドイツでは、むしろ勤勉でおとなしいアジア系移民に対する差別はほとんどその存在が認識されてこなかったようだ。あるいは、何を「差別」と感じるかにもよるだろう。
2019年の調査ではアジア系回答者の73%が「アジア人はドイツで差別を受けている」に強く同意または同意したのに対し、非アジア系回答者でこれに同意したのは42%だけだった。
身体への攻撃だけが差別行為ではない。たとえば同調査で、「チン・チャン・チョン」(おもに中国系に対する蔑称)と言われたことのある人は約90%にものぼる。筆者ももちろんある。だが、これは「つり目ジェスチャー」同様、もはや一般的すぎて腹も立たないほどだ。しかも、ヨーロッパではこのような行為が「友好の証」と思っている人も少なくない。まさに無知から来る差別と言えるだろう。
しかし、パンデミック下で悪質な差別も増えたようだ。シュトゥットガルト在住の日本人男性は「コロナウィルス」と暴言を吐かれ、ニュルンベルク在住の日本人女性は婦人科の受付で突然消毒スプレーを吹きかけられたという。小さな嫌がらせの話もよく聞くようになった。だが、アメリカのように前大統領が公然と新型コロナを「中国ウイルス」呼ばわりしたような国に比べて、ドイツではまだある程度の抑制力が働いているようには感じられる。アメリカのように、黒人がアジア系に危害を加える怒りの連鎖のような構造も、ないように見える。少なくとも、今のところは。
法改正によりヘイトスピーチには個人レベルでも対処
今月12日には政府が新法を可決、個人レベルでのヘイトスピーチを罰金または懲役最高2年の刑事犯罪とした。議会で承認されたら、SNSおよびテキストやメールなどに含まれるヘイトスピーチも対象となる(現行法では刑罰の対象となるのは公共の場でのヘイトスピーチのみ)。
クリスティーネ・ランブレヒト法務大臣は、新法はユダヤ人、イスラム教徒、同性愛者、障害者などを保護することを目的としていると述べた。が、やはりユダヤ系およびイスラム系コミュニティへのヘイトクライムがより懸念されているようだ。
国内の反ユダヤ主義犯罪は、2020年に前年比15.7%増加し、合計2,351件の事件が発生した。うち、62件が暴力行為、大多数はSNSなどでのヘイトスピーチだった。
今週末は、イスラエルによるガザ地区攻撃を受けて、ベルリンなどの大都市で反ユダヤ主義者たちの大規模なデモが起こっている。