最新記事

ヘイトクライム

絶えないアジア人差別 ドイツでは?

2021年5月18日(火)16時30分
モーゲンスタン陽子

アジア系の49%がパンデミック中に差別

同プロジェクトの別調査では2020年10月〜11月、アジア系移民703人に対しオンラインで質問した。回答者の49%がこのパンデミック中に人種差別を経験したと答えている。うち、62%が言葉による侮辱を受け、11%が「押された」「唾を吐かれた」「消毒剤を噴霧された」などの身体的攻撃を受けた。

さらに、27%が医療診療所から拒否されるなど、制度的な人種差別を報告している。差別のほとんどは通りや地元の公共交通機関などの公共スペースで発生したが、店舗や学校などでもヘイト行為があったようだ。

コロナパンデミックが始まって以来、アジア人差別は国際的に増えている。たとえば米国では、2020年初めから2021年2月末までに、AAPI(アジア・太平洋諸島系アメリカ人)に対する人種差別的攻撃が約3,800件報告された。実際はおそらくそれをかなり上回るだろう。しかも、凶悪な事件が多いのは周知のとおりだ。

ドイツについては、連邦差別禁止庁への報告が前年比ほぼ2倍の約3,600から6,000件以上となった。とくに新型コロナ関連差別についての2020年報告の約25%(11月末時点で1,500件)の多くがアジア出身と思われる人々に対するものだった。(MEDIENDIENST)

言葉の差別に疎いドイツ人

1970年代から1980年代にかけて、韓国やフィリピンからの看護師が西ドイツに、ベトナムからの契約労働者が東ドイツに多数派遣されてきた。移民増加に伴い反外国人感情も高まり、1980年にハンブルクで極右勢力によりベトナム人2人が殺害されたほか、1991〜92年にかけて東独中心にヘイトクライムが多発した。

しかし、ユダヤ人差別の歴史があり、またトルコ系移民をはじめとするイスラム教徒との確執が深いドイツでは、むしろ勤勉でおとなしいアジア系移民に対する差別はほとんどその存在が認識されてこなかったようだ。あるいは、何を「差別」と感じるかにもよるだろう。

2019年の調査ではアジア系回答者の73%が「アジア人はドイツで差別を受けている」に強く同意または同意したのに対し、非アジア系回答者でこれに同意したのは42%だけだった。

身体への攻撃だけが差別行為ではない。たとえば同調査で、「チン・チャン・チョン」(おもに中国系に対する蔑称)と言われたことのある人は約90%にものぼる。筆者ももちろんある。だが、これは「つり目ジェスチャー」同様、もはや一般的すぎて腹も立たないほどだ。しかも、ヨーロッパではこのような行為が「友好の証」と思っている人も少なくない。まさに無知から来る差別と言えるだろう。

しかし、パンデミック下で悪質な差別も増えたようだ。シュトゥットガルト在住の日本人男性は「コロナウィルス」と暴言を吐かれ、ニュルンベルク在住の日本人女性は婦人科の受付で突然消毒スプレーを吹きかけられたという。小さな嫌がらせの話もよく聞くようになった。だが、アメリカのように前大統領が公然と新型コロナを「中国ウイルス」呼ばわりしたような国に比べて、ドイツではまだある程度の抑制力が働いているようには感じられる。アメリカのように、黒人がアジア系に危害を加える怒りの連鎖のような構造も、ないように見える。少なくとも、今のところは。

法改正によりヘイトスピーチには個人レベルでも対処

今月12日には政府が新法を可決、個人レベルでのヘイトスピーチを罰金または懲役最高2年の刑事犯罪とした。議会で承認されたら、SNSおよびテキストやメールなどに含まれるヘイトスピーチも対象となる(現行法では刑罰の対象となるのは公共の場でのヘイトスピーチのみ)。

クリスティーネ・ランブレヒト法務大臣は、新法はユダヤ人、イスラム教徒、同性愛者、障害者などを保護することを目的としていると述べた。が、やはりユダヤ系およびイスラム系コミュニティへのヘイトクライムがより懸念されているようだ。

国内の反ユダヤ主義犯罪は、2020年に前年比15.7%増加し、合計2,351件の事件が発生した。うち、62件が暴力行為、大多数はSNSなどでのヘイトスピーチだった。

今週末は、イスラエルによるガザ地区攻撃を受けて、ベルリンなどの大都市で反ユダヤ主義者たちの大規模なデモが起こっている。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

都区部コアCPI1月は前年比+0.2%、エネルギー

ビジネス

寄り付きの日経平均は反発スタート、自律反発ねらいの

ビジネス

IMF、緩和持続へ日銀に政策修正を提言「利回り目標

ビジネス

仏LVMH、第4四半期は大幅増収 年末に高級品需要

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:あぶない超加工食品

2022年2月 1日号(1/25発売)

脳の快感回路にダイレクトに響く「不自然な食品」は食品業界の福音だが、消費者には病気の源?

人気ランキング

  • 1

    キム・カーダシアン、また「写真修正」疑惑 「脚どうした?」「影は嘘をつかない」

  • 2

    米中の間で「いいとこ取り」してきた韓国が、半導体供給でついに決断を求められる

  • 3

    なぜネコは1日じゅう寝ているのでしょう?

  • 4

    映画界に変革をもたらした『マトリックス』、18年ぶ…

  • 5

    新曲の一部? BTSのVが聞き慣れない曲を口ずさむ動画…

  • 6

    「極太アナコンダに漁師が襲われている!」訳ではない

  • 7

    男の子は幼児期から「ガラスのハート」 子育ては性…

  • 8

    変動金利型と固定金利型のどちらの住宅ローンを選択…

  • 9

    角を切られ、30回手術を受けたサイが野生に戻される

  • 10

    ニッポンのリタイヤしたオジサンたちが次々と感染す…

  • 1

    1000年に1度のトンガ大噴火、これでは終わらない可能性

  • 2

    部屋を「片付けなさい」はNG 子供の自己肯定感を伸ばす、正しい「声かけ」の方法

  • 3

    キム・カーダシアン、また「写真修正」疑惑 「脚どうした?」「影は嘘をつかない」

  • 4

    『ドライブ・マイ・カー 』がアメリカの映画賞を総な…

  • 5

    なぜネコは1日じゅう寝ているのでしょう?

  • 6

    「渡航禁止の解除を」WHO勧告を無視する日本とオミク…

  • 7

    米中の間で「いいとこ取り」してきた韓国が、半導体…

  • 8

    キャサリン妃の服装は、メーガン妃の「丸パクリ」!? …

  • 9

    「2人にしか分からない言葉」で夜な夜な戯れ合う双子…

  • 10

    閲覧注意:インパラを丸呑みするニシキヘビの衝撃映像

  • 1

    飛行中のステルス爆撃機が「グーグルマップ」に映り込んでいた

  • 2

    外国人同士が「目配せ」する、日本人には言いづらい「本音」

  • 3

    コロナ感染で男性器の「サイズが縮小」との報告が相次ぐ、「一生このまま」と医師

  • 4

    空手がアラブで200万人に広まったのは、呑んだくれ日…

  • 5

    ブタの心臓を受けた男に傷害の前科──「もっとふさわ…

  • 6

    1000年に1度のトンガ大噴火、これでは終わらない可…

  • 7

    部屋を「片付けなさい」はNG 子供の自己肯定感を伸…

  • 8

    日本のコロナ療養が羨ましい!無料で大量の食料支援…

  • 9

    キム・カーダシアン、また「写真修正」疑惑 「脚どう…

  • 10

    早老症のユーチューバーが15歳で死去

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

STORIES ARCHIVE

  • 2022年1月
  • 2021年12月
  • 2021年11月
  • 2021年10月
  • 2021年9月
  • 2021年8月