最新記事

中東

パレスチナの理解と解決に必要な「現状認識」...2つの国家論は欺瞞だ

The False Green Line

2021年5月18日(火)19時04分
ユセフ・ムナイェル(米アラブセンター研究員)
ガザ地区から飛んでくるロケット弾を撃ち落とすイスラエルの迎撃ミサイル

ガザ地区から飛んでくるロケット弾をイスラエルの迎撃ミサイルが撃ち落とし、その閃光が夜空を照らす AMIR COHENーREUTERS

<衝突が激化するイスラエルとパレスチナ、形骸化した自治政府と「2国家共存」に固執する弊害を考えるべきだ>

聖地エルサレムで始まった衝突が海沿いのガザ地区に飛び火し、多くの市民が犠牲になったせいで、自由を求めるパレスチナ人の戦いが久々に世界中の注目を集めている。そして遅まきながらも、国際社会は「二つの国家」の幻想にしがみつくのをやめて「一つの国家(による占領)」の現実を直視し始めた。

ヨルダン川の西岸から地中海に至る土地の帰属をめぐる争いは、もう何十年も続いている。争点は、要約すればこうだ。そこにあるべきは(ユダヤ人の)一つの国家か、それとも(ユダヤ人とパレスチナ人の)二つの国家か。

だが、何がどうある「べきか」という議論はむなしい。未来がどうあるべきかの議論は、もちろん大切だ。しかしその前に、つらくても現実を見据える必要がある。まともな現状認識を共有できていなければ、みんなで問題解決の方策を見つけていくことは不可能に近い。

自治政府に自治の権限はない

イスラエルとパレスチナの地に「一つの国家」問題が浮上したのは何十年も前のことだ。1967年の第3次中東戦争(いわゆる「6日間戦争」)でアラブ勢力が惨敗し、ヨルダン川西岸から地中海に至る地域を一つの国家が軍事的に占領した。その国の名はイスラエル。占領は一時的な状態のはずだったが、そのまま半世紀も続き、それが既成事実となっている。露骨な欺瞞だが、それを黙認する人たちのせいで、いつの間にか常態となっている。

名目上はパレスチナ「自治政府」の領土とされるヨルダン川西岸で、パレスチナ人の暮らしを左右する絶対的な権力を握っているのはイスラエル政府だ。パレスチナの自治政府に自治の権限はない。イスラエルのお慈悲で生きているだけだ。イスラエルの許可がなければ、パレスチナ自治政府の役人は自分たちの「領土」に出入りすることもできない。治安の維持に関してイスラエル軍の占領当局と合意ができていなければ、パレスチナの存続は維持できない。

イスラエル建国の1948年から第3次中東戦争までの19年間は、それでもヨルダンがヨルダン川の西岸を、エジプトがガザ地区を支配し、それ以外の場所がイスラエル領だった。つまりアラブ人の土地とユダヤ人の土地が別々にあった。しかし、それも遠い昔の話。1967年から半世紀以上が過ぎた今、そこにあるのは一つのユダヤ人国家だけ。それが現実だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナ復興に凍結資産活用で合意も 和平

ビジネス

AIが投資家の反応加速、政策伝達への影響不明=ジェ

ワールド

不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ

ビジネス

米中古住宅販売、1月4.9%減の408万戸 金利高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中