コロナ落第生の日本、デジタル行政改革は「中国化」へ向かう
BIG BROTHER VS COVID
ワクチン接種率でも大きく後れを取る日本、感染の再拡大が続き、経済のダメージも大きい FIERS-ISTOCK
<大動員+デジタル技術でコロナ抑え込みに成功しているのは、中国だけではない。感染症対策に限らず、多くのメリットを生み出す行政デジタル化。日本も志向するが、ウイグル問題のような人権侵害はどう防ぐのか(後編)>
※前編より続く:コロナに勝った「中国デジタル監視技術」の意外に地味な正体
大動員とそれを支えるデジタル技術は、中国のみに見られるものではない。
韓国では大規模なPCR検査、調査スタッフを増員しての感染経路追跡という動員に加え、国民IDである住民登録番号に基づき、出入国履歴やクレジットカード、交通カードの利用履歴、携帯電話の位置情報など各種情報の統合、さらに監視カメラ映像の活用まで行っている。
なぜ、韓国はこのような対策を採ることができたのか。「韓国の感染症関連の法制度はもともと日本と大きく異なるものではなかった」と、国民IDに詳しい國學院大學の羅芝賢(ナ・ジヒョン)専任講師は指摘する。
転機となったのは2015年のMERS(中東呼吸器症候群)流行だ。国民の不安感が増大し、激しく政府を突き上げたことで緊急の法改正が行われ、前述の情報活用は合法化された。
コロナ対策の成功例として知られる台湾でも同様で、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行をきっかけに、動員体制と国民IDである身分証統一番号の活用を含めた情報収集、統合の仕組みが整えられている(関連記事:コロナ封じ込め「デジタル監視」を台湾人が受け入れる理由)。
一方、日本は1960年代以後、何度か国民IDの導入を試みてきたが、いずれも失敗に終わった。現行のマイナンバー制度も普及率は低い。
「世界的に見ても、導入を実現したのは韓国、台湾、エストニアなどの後発福祉国家ばかり」と、羅講師は指摘する。「アメリカやイギリス、ドイツ、日本などの先発福祉国家は失敗している」
後発福祉国家では、既存の住民番号を流用する形で新規の社会保障サービスが導入され、複数の行政情報を統合する国民IDが形成されてきた。中国の身分証も、80年代に導入された仕組みが、その後多くの行政サービスに活用されるという形で発展してきた。
一方、先発福祉国家では、行政サービスごとに個別の管理体系が構築されている。日本では戸籍、住民票、健康保険、納税などの事業ごとに番号が分かれ、それを管理する主体も異なる。
それらの統合にはコストがかかる上、市民にとってメリットに乏しいため受け入れる動機が弱い。羅講師は「福祉行政の向上をもたらさない形での国民ID導入は今後も難しい」と予測する。
日本も中国と「同じ方向」へ
近年の急激なデジタル技術の発展は、福祉の向上だけではない、多くのメリットをも生み出している。その最先端を走る中国では、国民IDを軸としたデータ統合により、行政効率が大きく向上した。
結婚や住宅ローン申し込みなどのたびに、無数の役所を駆けずり回らなければならないのが中国人民の不満のタネだったが、近年ではスマホ一つで完結することも多い。一部地方では離婚届までスマホで提出できるという徹底ぶりだ。