コロナに勝った「中国デジタル監視技術」の意外に地味な正体
BIG BROTHER VS COVID
一例を紹介しよう。湖北省孝感市にある農村、袁湖村の共産党書記の奮闘について、中国ウェブメディア・棱鏡が取り上げている。
村に通じる道路は土砂を積んで封鎖したが、強引に突破する者がいたためセメントで補強した。法事を予定していた14世帯を一軒ずつ回って中止するよう説得した。街に住む孫に食べ物を送り届けたいという老人をなだめ、プロパンガスが切れたという家には数日だけたき火で我慢してほしいと諭す。
400万以上の基層組織一つ一つでこうした涙ぐましい活動が繰り広げられていた。
日本と異なるアプリ設計思想
魔法とは対照的な泥くさい活動、地味な接触機会の削減、それを監督するマンパワーが、中国のコロナ対策の成功をもたらした。
大動員は効果的な一方で、物心両面に多大な負担をもたらす。そこで登場するのが、デジタル技術による効率化だ。
デジタル技術の中でも、最も大々的に利用されたのが「健康コード」というスマートフォンアプリだ。その役割は2つ、直近の滞在地の証明と、訪問先の記録である。
前者については主に携帯電話の基地局記録を参照。どこに滞在していたかを証明する極めて強力な手段となる。後者は訪問した建物ごとにQRコードを読み込むことで、その場所を訪れたという記録を取るチェックイン機能だ。
筆者は昨年2月下旬にコロナ取材のため、広東省深圳市を訪問したが、当時は紙に名前と電話番号と体温を記録するというアナログな形式で記録していた。記録を残しておけば、もし感染者が見つかっても、同じ時間にその場所にいた人を見つけ出すことができる。
健康コードならば、QRコードの読み込みだけで同じ記録が収集できるほか、最初からデータ化されているため集計の手間が省ける。さらに高速鉄道や飛行機などの搭乗記録と組み合わせることによって、より詳細な滞在場所の記録をデータベース化することができる。
「誰が、いつ、ここを訪問したのか。その時に発熱はあったのか」
記録する情報は極めてシンプルで、政府のクラウドに記録されているため、チェックイン機能は拡張がしやすい。
昨年春にはテンセント(騰訊)などのITベンダーから、健康コードと連動する顔認証タブレットが販売された。オフィスや学校の入り口に設置し、訪問者は顔を向けるだけで、体温測定を含めたチェックインが完了する。健康コードの読み込みや検温で混雑し、いわゆる3密にならないように開発された。
スマホのアプリを使わずともチェックインできるのが、中国が監視国家たるゆえんだろう。