最新記事

新型コロナウイルス

コロナに勝った「中国デジタル監視技術」の意外に地味な正体

BIG BROTHER VS COVID

2021年5月6日(木)18時40分
高口康太(ジャーナリスト)

400万の組織で動員した

感染が広がるか縮小するかは、結局のところ人間の接触機会の多寡で決まる。中国は徹底的な接触機会の減少に取り組んだ。最大のチャレンジは、最初の流行地となった武漢市を含む湖北省の封鎖だろう。

昨年1月、6000万人の住民が住む巨大自治体が封鎖された。たまたま湖北省に滞在していた人が離れられなくなる、逆に省外にいた人が自宅に戻れなくなるなど多くの混乱をもたらした。

あまりに乱暴で人権を軽視したやり方は人々に大きな負担を強いるため、必ずやほころびが出るはずだ──。海外からはそうした批判的な見方が強かったが、今では評価は逆転している。

湖北省の封鎖に加え、1~2月には封鎖式管理と呼ばれる外出制限が中国全土で実施された。都市では社区(壁で囲まれた敷地内に複数のマンションが集まった基層コミュニティー)、郊外では農村を単位として外部からの立ち入りを禁じ、住民の外出も極力控えるように指示された。

地域封鎖や外出制限は他の国でも導入された施策だが、問題は徹底できるか否か。なぜ中国は徹底できたのか。その秘密は大動員にある。

magSR20210506bigbrother-1-3.jpg

都市でも農村でもコミュニティーの入り口に何人もの「監視員」が立ちコロナの抑え込みに尽力(上海) ALY SONG-REUTERS

「どこにこれだけの人がいたのかと驚いた」

そう話すのは、天津市に住む日本人駐在員のY氏(30代男性)。居住する社区には3つの入り口があったが、1つに限定された。

その入り口では、外部から立ち入りがないか検査され、住民であっても臨時の通行証を持っているかを確認され、体温を測られた。湖北省など外地からの帰還者はいないかなど、社区内部でも頻繁に調査が繰り返されたという。

「もともと入り口には不動産管理会社の警備員が立っていたが、それ以外に多くの人が封鎖式管理に協力していた。コロナの前まではこんな人々がいることを知らなかった」

封鎖式管理の実務を担ったのは都市では居民委員会、農村部では村民委員会という基層組織だ。もとは1950年代に整備された組織で、コミュニティー内でのけんか、もめ事を仲裁したり、迷信・邪教の禁止といった政府キャンペーンへの協力を任務とする中国版町内会であったが、コロナ禍という大災害を機に引っ張り出されてきた。

加えて、マンパワーの供給源となったのが中国共産党だ。2019年末時点で党員数は9191万人、中国全土に468万もの基層組織を持つ。

彼ら居民委員会や村民委員会、共産党員が自粛するよう14億人民を説得し、監視した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促

ビジネス

米アポロ、後継者巡り火花 トランプ人事でCEOも離
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中