最新記事

宇宙

金星の軌道上のダストリングの全体が初めて観測される

2021年4月21日(水)18時00分
松岡由希子

右上から左下に光る帯が金星のダストリング 中央が太陽、左下の点が地球 NASA/Johns Hopkins APL/Naval Research Laboratory/G. Stenborg & B. Gallagher

<NASAの太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブが、偶然、金星のダストリングの全体を初めて観測していたことが明らかとなった...... >

金星の軌道上には、塵粒子が帯状に太陽を周回する「ダストリング」が存在する。このほど、アメリカ航空宇宙局(NASA)の太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」がこのダストリングの全体を初めて観測したことが明らかとなった。一連の研究成果は、2021年4月7日、学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」で発表されている。

「惑星間塵」と呼ばれる様々な大きさの塵粒子が無数に存在

金星の軌道上のダストリングは、1970年代に打ち上げられた太陽探査機「ヘリオス」の観測画像でとらえられたほか、NASAの太陽観測衛星「STEREO」による2007年から2014年までの観測データでも確認されている。

「パーカー・ソーラー・プローブ」には、太陽風の広角画像を白色光で撮影できるように設計された95度以上の広視野カメラ「WISPR」が搭載されており、これによって、ほぼ360度にわたり、このダストリングを撮影することに成功した。2019年8月25日に「WISPR」が撮影した画像では、ダストリングが左下から右上にかけて斜めに伸びており、左から順に地球、金星、水星が明るく映っている。また、左側には天の川の一部も見られる。

dust-ring.jpg

太陽系には、「惑星間塵」と呼ばれる様々な大きさの塵粒子が無数に存在し、多くの光を反射して、太陽風の100倍以上もの明るさで光る。そこで、「WISPR」による太陽風の観測では、特殊な画像処理を用い、背景にある塵や星などのバックグラウンドノイズを観測画像から除去している。金星の軌道上のダストリングは、この画像処理を通じて、偶然、見つかった。

金星の軌道上の塵粒子は、周辺の領域よりも密度が濃い

研究論文の責任著者で米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所(APL)のノア・ロウアフィ博士は「この画像処理でダストリングが観測画像から消えることはなかった」と振り返る

研究チームは、画像処理によるアーティファクト(データの誤りや信号の歪み)でないことを確認するべく、地球や金星など、ダストリングを持つ惑星の軌道にプロットしたところ、金星の軌道とぴったり一致した。相対的な明るさをもとに推測した結果、金星の軌道上の塵粒子は、周辺の領域よりも約10%密度が濃いこともわかった。

ダストリングがどのように形成されるのかは現時点で明らかになっていない。「原始の雲から自然と形成されたのではないか」という説や「塵粒子が互いにぶつかり合いながら波のように移動し、その一部が放出されるまで軌道にとどまるのではないか」という説などが示されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月実質消費支出は前年比-3.0%=総務省

ビジネス

ネトフリ、米ワーナー買収入札で最高額提示か 85%

ワールド

マクロン氏、中国主席と会談 地政学・貿易・環境で協

ワールド

米国、タンザニアとの関係見直し表明 選挙暴力と自由
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中