金星の軌道上のダストリングの全体が初めて観測される
右上から左下に光る帯が金星のダストリング 中央が太陽、左下の点が地球 NASA/Johns Hopkins APL/Naval Research Laboratory/G. Stenborg & B. Gallagher
<NASAの太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブが、偶然、金星のダストリングの全体を初めて観測していたことが明らかとなった...... >
金星の軌道上には、塵粒子が帯状に太陽を周回する「ダストリング」が存在する。このほど、アメリカ航空宇宙局(NASA)の太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」がこのダストリングの全体を初めて観測したことが明らかとなった。一連の研究成果は、2021年4月7日、学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」で発表されている。
「惑星間塵」と呼ばれる様々な大きさの塵粒子が無数に存在
金星の軌道上のダストリングは、1970年代に打ち上げられた太陽探査機「ヘリオス」の観測画像でとらえられたほか、NASAの太陽観測衛星「STEREO」による2007年から2014年までの観測データでも確認されている。
「パーカー・ソーラー・プローブ」には、太陽風の広角画像を白色光で撮影できるように設計された95度以上の広視野カメラ「WISPR」が搭載されており、これによって、ほぼ360度にわたり、このダストリングを撮影することに成功した。2019年8月25日に「WISPR」が撮影した画像では、ダストリングが左下から右上にかけて斜めに伸びており、左から順に地球、金星、水星が明るく映っている。また、左側には天の川の一部も見られる。
太陽系には、「惑星間塵」と呼ばれる様々な大きさの塵粒子が無数に存在し、多くの光を反射して、太陽風の100倍以上もの明るさで光る。そこで、「WISPR」による太陽風の観測では、特殊な画像処理を用い、背景にある塵や星などのバックグラウンドノイズを観測画像から除去している。金星の軌道上のダストリングは、この画像処理を通じて、偶然、見つかった。
金星の軌道上の塵粒子は、周辺の領域よりも密度が濃い
研究論文の責任著者で米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所(APL)のノア・ロウアフィ博士は「この画像処理でダストリングが観測画像から消えることはなかった」と振り返る。
研究チームは、画像処理によるアーティファクト(データの誤りや信号の歪み)でないことを確認するべく、地球や金星など、ダストリングを持つ惑星の軌道にプロットしたところ、金星の軌道とぴったり一致した。相対的な明るさをもとに推測した結果、金星の軌道上の塵粒子は、周辺の領域よりも約10%密度が濃いこともわかった。
ダストリングがどのように形成されるのかは現時点で明らかになっていない。「原始の雲から自然と形成されたのではないか」という説や「塵粒子が互いにぶつかり合いながら波のように移動し、その一部が放出されるまで軌道にとどまるのではないか」という説などが示されている。