難民が受け入れ国の「市民」になるには何が必要か...戦禍を逃れた人々の切なる願い
REFUGEES NO LONGER
クリーニング会社ジテックスではシリアやエジプトの難民30人が働く BERND WUSTNECKーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES
<受け入れ国で就職し、納税し、政治にも参加内戦下の故国を離れて新生活を送るなか、シリア出身者が目指す「市民」への道>
危険な海路を移動し、狭苦しい難民キャンプで数カ月、または数年間も過ごし、密航業者に多額を支払った末、内戦のピーク時にシリアから西欧にたどり着いた難民は100万人を超える。
シリア内戦が始まってから10年。戦闘はおおむね沈静化したが、難民の多くは今も、安心して故国へ帰れるとは考えていない。彼らが逃れてきた独裁的体制は存続している。帰国したら反政府活動や反体制派支持、徴兵忌避を理由に迫害されたり、多額の金品を要求されるかもしれないと大半の難民が危惧する。
同時に、多くの人は受け入れ国に溶け込もうと懸命に努力してきた。地元の言語を習得し、仕事を見つけ、支援に頼ることなく自活している。故国に望んだ民主体制下での生活を別の国でようやく築き上げた彼らにとって、その全てを捨てて帰ることなど想像できない。
西欧各国はシリア難民に保護を提供してきた。段階的送還が噂されるものの、政府が極右勢力の圧力に屈して難民を送り返すことは法的に許されないと、活動家らは主張する。
バシャル・アサド大統領の下、バース党支配が続くシリアに彼らが帰国することはないとの認識が欧州各国では一般的になっているようだ。とはいえ西欧社会で暮らし続け、地元経済に貢献する彼らをめぐって、新たな議論が持ち上がっている。果たして彼らは、今も「難民」なのか。それとも、ほかの住民と同じ社会の一員と見なすべきか──。
活動家らの指摘によれば、難民という用語は侮蔑的な意味で使用されることがあり、排他的な響きを持つ恐れがあるが、送還措置から守るためには必要な法的カテゴリーだ。壁の存在は感じながらも、シリア人の多くは市民として受け入れ国の一員になりたいと望んでいる。
彼らの中には、既に居住国の政治に参画している人もいる。民主化や人権の尊重、まともな生活を求めて市民が立ち上がり、内戦に火が付いたシリアを追われた人々は、今や欧州の地で自らの政治的発言権を追い求めている。
最終ステップは市民権取得
政策関連の助言を行うドイツ経済調査研究所の報告によれば、ドイツに居住する難民で、2016年時点で就職を希望していた人の半数は18年までに仕事を得た。その圧倒的多数がシリア人だ。難民家庭の子供の大半は学校制度に組み込まれ、高齢化が進むドイツの労働力になると期待されるという。
改善の余地はあるが、シリア人は全般的にドイツ経済にうまく統合されていると、ベルリン自由大学教育・家庭経済学教授で、ドイツ経済調査研究所教育・家庭部門を率いるカタリナ・シュピースは指摘する。
「ドイツのアンゲラ・メルケル首相が『私たちにはできる』と宣言して難民受け入れを発表したのは、わずか5年ほど前だ。誰にとっても統合に十分な時間があったとは言えない。到着当初はドイツ語を話すこともできなかったシリア難民の状況を考えると、統合は非常によく進んだのではないか」