アフガンの戦場から米兵が去った後、殺人マシンによる「永続戦争」が残る

No End To Forever Wars

2021年4月20日(火)18時58分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元陸軍情報分析官)

210427P34funeral_AFG_03.jpg

アフガニスタン駐留中に路上の爆弾で死亡した米軍兵士の葬儀 JEENAH MOONーREUTERS


重要な航空作戦を担う中核の施設はペルシャ湾岸の小国カタールに位置する。陸軍のハブはクウェート、海軍のハブはバーレーンだ。

実際の空爆や殺害が行われるのは、このハブ・アンド・スポーク方式でスポークが延びた先端部分でのこと。そこでは必ずアフガニスタンと同じことが行われている。

現地には正規の部隊と非正規の部隊がいて、たいていは正規の兵士より民間の請負業者が多い。彼らは人知れず「目立たない」活動に従事しており、殺人攻撃の大半は国外から実施される。

司令部は中東の同盟国に

任務として取り組む課題は多岐にわたる。国際的な組織犯罪、大量破壊兵器の拡散、長距離ミサイルや攻撃ドローン対策、サイバー戦、海賊、不法移民......などだ。これだけ網羅すれば、ほぼどこでも戦争に従事することを正当化できる。

ハブと無数のスポークは地上とネット上、そして宇宙空間にも及ぶネットワークを形成している。それは世界規模の監視・情報マシンであり、「前方」にいる全ての人を結び、最終的には後方、つまり米国内の基地につながる。スポークの先端にいるのはごく少数の人だが、この先端部は恐ろしく精密かつ柔軟な攻撃能力を持つ。傍受した情報に基づいてドローンを飛ばすにしても、今日はシリア、明日はリビア、その次の日はソマリア、ナイジェリアという具合に東奔西走できる。

その最たる例が昨年の無人機によるイラン革命防衛隊の司令官ガセム・ソレイマニ殺害だった。イラクのバグダッドで実行に移されたこの作戦は、アメリカの戦争マシンによる見事な出来栄えの作品だった。当時のトランプ政権は作戦を実施すべきか否かを検討するのみで、成功率を問う必要はなかった。すっかりお膳立てができていたからだ。

表には出ないが、作戦には多数の制服組、民間人、企業が関わっていた。ソレイマニの移動経路を突き止め、関係者間の連絡内容を把握し、衛星通信のタイミングやパイロットの勤務体制を調整し、監視飛行の準備を整え、爆弾を機体に搭載し、作戦行動の時間を調整し、航空管制と複雑な段取りを整えた上で、通過する空域の許可を得るために各国政府に連絡もした。

さらに何千人もの人々が前線にいる少数の者のために、司令部で通信と連絡網を支えていた。彼らはグラフィックの作成、上層部向けの説明資料の用意、刻々と変化する最新情報の提供をしていた。イラクや湾岸諸国にある基地だけではない。米軍の意思決定の場はフロリダ州にあり、通信傍受と翻訳を主に引き受ける施設はジョージア州に、航空作戦を監督する場所はサウスカロライナ州に、偵察資料をダウンロードして分析する施設はワシントン首都圏にある。その全てが作戦に参加し、支えていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中