最新記事

少数民族

中国の弾圧で人権を踏みにじられるウイグル女性たち 悲惨な虐待の実態と、必死の抵抗

UIGHUR WOMEN AT THE FORE

2021年4月13日(火)14時47分
シミナ・ミストレアヌ(フリーランスジャーナリスト)

収容所の暮らしはどんなものか。それを伝えるのは難しいが、絵で教えてくれた女性がいる。ソフィア(18年後半に中国を脱出したウイグル人だが、亡命先での在留資格が確定していないため匿名を条件に取材に応じた)は18年に、外国へ旅したことを理由にウルムチの収容所へ送られ、半年ほどを過ごした。外国への旅行者は、たいてい「愛国心を欠く」と見なされて収容や「再教育」の対象となる。外国に親戚がいる、当局が禁じたメッセージアプリをダウンロードしている、モスク(イスラム礼拝所)に通っているなども、取り締まりの対象となる行為だ。

210406p18_UGL_07.jpg

ソフィアが描いた収容所の絵 DRAWINGS BY SOPHIA


ソフィアは半年間の収容所生活の断片を鉛筆画で残した。手錠と足かせをはめられたまま、収容所の中庭に引き出され、長い列を作って太陽を眺める人たち。監視カメラの下でシャワーを浴びる女性たち。尊厳を無視した身体検査。中身の分からない注射を打たれる被収容者。この注射を打たれた女性の生理は止まると、ソフィアは言う。

日常的な殴打と洗脳授業

収容所には厳しい日課がある。起床後はすぐ居室の検査がある。その間、同室の20人ほどの女性たちは敬礼をして「習シー近・チンピン平万歳!」を唱えなければならない。その後は中国語の学習や政治教育などの授業が続く。食事は蒸しパンと、汚いボウルに入った野菜スープ。ソフィアが見せてくれた1800人民元(約3万円)の領収書は、収容中の飲食代として解放時に支払わされたものだった。

18年に2カ月ほどウルムチの収容所に入れられていたズムレット・ダウートは、被収容者が殴打されるのは日常茶飯事だったと話す。ある晩、ダウートは糖尿病を患っていて満足に食事が取れない年配の女性にパンを分け与え、翌日も同じことをした。すると突然、職員2人に激しく殴られ、そのうちの1人に「おまえの神様が本当に偉大なら、助けてもらえよ」と言われたという。

210406p18_UGL_10.jpg

2カ月も収容所生活を送ったズムレット・ダウート DANISH IMRAN FOR FOREIGN POLICY


パキスタン国籍の夫が、在北京パキスタン大使館やウイグル自治区の治安当局に訴え出たせいもあって、ダウートは18年5月に解放された。そして翌年、夫婦と子供3人そろってパキスタンへの出国が認められ、その後、渡米した。

出国前、ダウートは不妊手術を強制されたと言う。ウイグル自治区政府は、彼女には既に子供が3人いるため、これ以上産むことは許さないと主張したとされる。筆者はウルムチの自治区政府にファクスで確認を求めたが、回答はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中ロの新ガスパイプライン計画、「膨大な作業」必要と

ワールド

ゴールドラッシュかリスクか、AIに世界の大口投資家

ワールド

ウクライナが水上ドローン攻撃、「影の船団」タンカー

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、オスロに到着 授賞式に数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中