最新記事

ミャンマー

繰り返されるミャンマーの悲劇 繰り返される「民主国家」日本政府の喜劇

2021年4月5日(月)11時30分
永井浩(日刊ベリタ)

「日本政府はビルマの民主化の進展に応じて、という条件をつけているというが、私は真の民主化の進展を条件にしてほしい。私一人の釈放だけでは不十分です。経済援助や投資を個人のためにではなく、国民全体の利益にむすびつくかたちで進めてほしい」

こう答えた彼女は、欧米とは異なる日本の対ミャンマー援助をやんわり批判した。欧米諸国は人権と経済援助をからめる「北風」路線をとっているのに対して、日本は経済援助を段階的に増やしながら軍政に民主化の促進をうながしていく「太陽」路線の優位を主張していたが、スーチー氏は「太陽は暑すぎて快適ではありません。これ以上太陽が暑くなると着ているものすべて脱がされてしまいます」というのだ。

日本のODA再開が彼女の軟禁からの解放に貢献したかのような見方にも、スーチー氏は反発した。「だれが私の解放をもっとも助けてくれたかは、歴史が明らかにすることです。その歴史を、本当の民主化を進めていくなかで、私たちはつくっていきたい」

なぜ『ビルマからの手紙』なのか

初対面の私がスーチー氏に対していだいた印象は、東南アジア各地の沼などでよく見かけるハスの花のイメージである。花は、凛として気品と優しさをたたえている。私はそのような美しい花を浮かべる水面の下がどうなっているのかを知りたくなった。

軍事政権や一部の日本人からは、欧米生活の長かった彼女には、自国の現実がよくわかっていないという批判が投げかけられていた。そのいっぽうで、欧米的な民主主義や人権の概念をあてはめ、彼女をミャンマー民主化の旗手にまつりあげる西側世論がある。だがそのような外部の一面的な見方だけでは、国民の圧倒的なアウンサンスーチー人気の秘密はわからない。でもかぎられたインタビューの時間では、その土壌がわからない。そこで私は、彼女に頼んでみた。

 「ビルマの民主化を本当に理解するには、この国の歴史、文化、社会への多面的なアプローチが必要だと思う。それを毎日新聞にお書きいただけないだろうか」。彼女は「私もぜひ書いてみたい」と端正な顔をほころばせながら快諾してくれ、「ただ、いまはとても忙しいし、NLDの承認も受けなければなりませんので、正式の返事は2,3日待っていただけませんでしょうか」とのことだった。もちろん党のOKもでた。

こうして、スーチー氏の連載エッセイ『ビルマからの手紙』が11月末から週一回、毎日新聞の紙面を飾りはじめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

和平交渉は「 真の結果に近づいている」=ゼレンスキ

ビジネス

インタビュー:M&A収益1000億円へ上積み、クロ

ワールド

米海軍、最大級の新型戦艦建造へ トランプ氏発表

ビジネス

過度な為替変動には断固たる措置、介入はフリーハンド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中