脳の2割を失い女王に昇格 インドクワガタアリの驚くべき生態明らかに
女王アリが死亡した時点から、コロニーのメスの7割ほどが闘いに加わり、争いは最長で40日間ほど続く...... Credit...Clint Penick
<女王アリとして生殖能力を高めるために脳の一部を犠牲にする、ユニークなアリの生態が判明した......>
脳の大きさを変化させるめずらしい生態が今回明らかになったのは、インドクワガタアリと呼ばれる体長2.5センチほどの大型のアリだ。大きな眼とまるでクワガタのような大アゴが特徴的で、インドの湿潤な平野部に多く生息している。体長の4倍ほどの距離をジャンプして獲物を狩ることから、ジャンプアリの別名でも呼ばれる。
脳の衰退の前提として、まずはそのユニークな繁殖システムを把握しておきたい。多くのアリの種では、女王アリとなるべき個体は孵化直後から決まっている。ところがインドクワガタアリの場合、すべてのメスのアリにチャンスがある。コロニーの大多数のメスが、女王昇格の機会を虎視眈々と狙っている状態だ。
これまで女王だったアリが死亡した時点で、次期女王の座を賭け、メスたちは激しい争奪戦を繰り広げる。鋭いアゴを相手に突きつけて攻撃し合い、耐えた者だけが勝者となる。多い時でコロニーのメスの7割ほどが闘いに加わり、争いは最長で40日間ほど続く。
最終的に5体から10体ほどの個体が勝ち抜き、産卵能力を有する「ゲーマーゲート」と呼ばれる集団となる。こうして働きアリから生殖能力を持つ新たな女王が誕生することで、巣の全滅を防ぐしくみとして機能しているのだろう。アリの種類にもよるが、ナショナル・ジオグラフィック誌は一般的なアリのコロニーであれば、女王アリの死に伴って巣も滅びゆく運命にあると指摘している。
脳を衰退させて卵巣に投資
このようなめずらしい女王制を敷くインドクワガタアリだが、女王に昇格した個体にユニークな変化が起きることがこのほど判明した。脳の一部を失い、代わりに産卵能力を拡充するのだ。この不可思議な実態は、ジョージア州立ケネソー大学のクリント・ペニック生物学博士らチームによる研究で明らかになり、科学機関誌『英国王立協会紀要B:生物科学』上で4月14日に発表された。
働きアリからゲーマーゲートに昇格した個体は、その脳の容積を19%から25%ほど失う。縮小に伴って働きアリとしての特性を失い、毒液の生成が停止するほか、狩りにも出ず、侵入者の撃退もせず、繁殖行動に専念するようになる。
研究を主導したペニック博士はニューヨーク・タイムズ紙に対し、レーザーを使った画像計測技術により、脳のどの領域が縮小しているのかを割り出したと説明している。
最も衰退していたのは視葉と呼ばれる領域で、これは主に視覚情報を処理する部分だ。博士は理由について、光の届かない巣のなかで産卵に専念することになるため、視覚信号を処理する必要がなくなるためではないかと述べている。