最新記事

サイエンス

北半球最大のニュートリノ望遠鏡がバイカル湖で完成

2021年3月22日(月)19時00分
松岡由希子
バイカル湖

透明度が高い深い淡水湖で、ニュートリノの検出に適していた.....anshar73-iStock

<3月13日、北半球最大のニュートリノ望遠鏡「Baikal-GVD」の第一期がロシア南東部バイカル湖に完成した...... >

世界最深かつ世界最大の貯水量を誇るロシア南東部バイカル湖で、2021年3月13日、北半球最大のニュートリノ望遠鏡「Baikal-GVD(バイカルニュートリノ望遠鏡)」の第一期が完成した。

透明度が高い深い淡水湖で、ニュートリノの検出に適している

ニュートリノは、電荷を持たない微粒子であり、この性質の研究によって宇宙の起源や進化の解明につながると考えられている。

しかし、質量が極めて小さく、他の物質とほとんど反応せず、透過性が高いため、非常に検出しづらい。そこで、宇宙から飛来するニュートリノと大量の水や氷のような透明度の高い物質との相互作用によって生じる荷電粒子からのチェレンコフ放射を記録する手法が、1960年に旧ソ連の物理学者モイセイ・マルコフによって提唱された。バイカル湖は、透明度が高い深く巨大な淡水湖であり、2ヶ月以上凍結するという点で、ニュートリノの検出に適している。

「Baikal-GVD」のプロジェクトは、ロシア科学・高等教育省、ドゥブナ共同原子核研究所、ロシア科学アカデミーを中心に、ロシア、ドイツ、チェコ、スロバキア、ポーランドの研究者によってすすめられてきた。研究チームは、準備段階として、2015年に光学モジュール192個からなるデモクラスターを配置した後、2016年に第一期に着手し、光学モジュール288個で構成されるクラスターを配置。

theunderwate.jpg

2021年3月までに、湖岸から4キロの地点で、同様のクラスター計8個が深さ750〜1300メートルまで沈められ、0.4立方キロメートルの「Baikal-GVD」の第一期が完成した。今後、その規模を1立方キロメートルにまで拡大していく計画だ。

ヴァレリー・ファルコフ科学・高等教育大臣は、露イタルタス通信の取材で「宇宙の歴史や銀河が生まれた仕組みを明らかにし、宇宙への理解を深めることができるだろう」と期待感を示している。


南極に世界最大のニュートリノ観測施設がある

ニュートリノの観測施設としては、日本では、カミオカンデ(解体済み)とスーパーカミオカンデが知られるが、「Baikal-GVD」のほか、南極にある世界最大のニュートリノ観測施設「アイスキューブ・ニュートリノ観測所」や仏トゥーロン沖の地中海の「アンタレス(ANTARES)」などがある。

アイスキューブ・ニュートリノ観測所では、2016年12月6日、宇宙から飛来したニュートリノの観測により、1960年に提唱された『グラショー共鳴』が初めて検出されている

Neutrino, measuring the unexpected--IceCube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中