食物アレルギーは「免疫療法」で克服できる時代へ
この免疫療法において、乳アレルギーを対象に世界初の臨床試験を行ったのが、本書の著者であるナドー博士が率いるスタンフォード大学のアレルギー・喘息研究センターのチームだ。世界最先端のアレルギー研究を行っている同大学には、世界中から研究者が集まり、多くの患者が治療や治験に参加している(ちなみに同研究所は自らも重度のアレルギーに苦しんだ経験のある、Napsterの創設者でFacebookの初代CEOもつとめた実業家のショーン・パーカーの寄付による研究所で、正式名称を「スタンフォード大学ショーン・N・パーカー・アレルギー・喘息研究センター」という)。
しかし、そのアメリカでも食物アレルギーを治療できる研究機関が同研究所ほかに非常に限られていることから、飛行機で通院するなど、治療費など患者の負担が大きいことをナドー博士は指摘する。また、アレルギー反応は個人差が大きく、生死にかかわるため、医療チームの連携やきめ細かなコントロール、そして患者と家族は長期間の忍耐など、精神的負担も強いられることとなる。したがって、治療の継続もまた課題となるなど、研究途上の分野でもあるのだ。
当然、食物アレルギーの診断や治療は、専門の医師のもとで行うようにと著者たちは警告する。まだすべてが解明されていないということは、これまでの常識が覆される可能性もあるということだ。しかし、本書で紹介される最新の知見によって食物アレルギーに対して攻勢に出るための強力な武器になるだろう。何よりもいまだに広まっている「アレルゲン回避」への誤解が解け、この治療に取り組もうという人が増えれば、症例の蓄積や専門家の育成など、この研究分野の発展に大きく寄与することができる。それこそが食物アレルギーに関する一般書としての本書の功績となるだろう。
『スタンフォード大学発 食物アレルギー克服プログラム』
ケアリー・ナドー&スローン・バーネット 著
山田美明 訳
CCCメディアハウス
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