最新記事

ルポ新型コロナ 医療非崩壊

医療崩壊を食い止めた人々がいた──現場が教えるコロナ「第4波」の備え方

THE GOOD “MAKESHIFTS”

2021年3月17日(水)17時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

magSR210316_medical2.jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

ハイリスクな患者は旭中央で受け入れる。では、地域でコロナ用に病床を作った病院はどうなったのか。「専門が小児科や消化器内科の医師が、今では中等症まで受け入れてくれる。ある病院は、まずコロナではない肺炎の患者を受け入れてレッドゾーンに入院させていた。ここでシミュレーションができる」(中村)

細菌性の肺炎ですら、「肺炎」というだけで受け入れない医療機関がある。渦中にあって、肺炎を受け入れるだけでも、地域の医療体制には確実にプラスになる。

振り返れば、中村たちも最初は手探りから始まっていた。救急搬送された患者が最初に入る初療室には陰圧室もある。「結核患者が交通事故で搬送されてくる」と想定して作ったものだ。内科診療室にも陰圧室を整え、何らかの感染が疑われる患者を最初に入れる想定をしていた。混合病棟にはナースステーションとは別に、医療者も感染の危険性がある感染症のためにサブステーションも作っていた。備えられる範囲の備えはあったが、「まさか使うことになるとは......」と誰もが思っていた。

だから、と中村は言う。「『コロナは診ない』と言えばコロナ患者が来ないと思っている病院が一番怖い。これだけ流行して無症状者が一定数いる以上、整形外科だろうが人工透析だろうが関係なく、コロナ疑いの患者はやって来ます。受け入れないにしても、積み上がった知見は共有される必要があるのです」

知見も備えである。ただ患者を受け入れろ、と言っているだけでは多くの病院はリスクを取らず、動かないままだ。現実を伝えるところから、体制の再構築は始まっていく。

■Case2:医療崩壊の現場から

2020年12月中旬、北海道・旭川市「慶友会吉田病院」6階病棟レッドゾーン──。国際医療NGO「ジャパンハート」から派遣された看護師、小林友恵は防護服を着込み、夜勤に入っていた。業務は病院勤務と大きくは変わらない。陽性者には必要があれば痰の吸引、ステロイドなど治療薬と酸素吸入の準備やサポートをして、体を動かせない患者には体の向きを変えるといったケアをする。

11月6日から入院患者136人と看護師など職員77人、213人の感染が確認され、患者39人が死亡した病院である。クラスター発生に伴う人員不足が響き、感染者が出ていた6階病棟の応援に入った職員を介して、病院内全域に感染者が広がった。

小林が応援に入った頃には、さすがに感染拡大のピークは過ぎていたが、人手が十分に足りているとは言えない状況は続いていた。12月8日から自衛隊の支援も始まり、院内の環境整備がより強化されたところでもあった。派遣された期間中も死者は出ており、小林もみとった。「これが続けば、スタッフのメンタル面はかなりきついだろうな」と彼女は思った。まだ若手にくくられる30歳になったばかりの小林は、総合病院での勤務経験こそあれ、ジャパンハートの専従看護師になりわずか3年、本来は別プロジェクトの主担当だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

第一生命HD、30年度利益目標引き上げ 7000億

ビジネス

JPモルガン、FRB利下げ予想12月に前倒し

ワールド

ニュージーランド、中銀の新会長にフィンレイ副会長を

ビジネス

中国の安踏体育、プーマ買収検討 アシックスなども関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中