韓国が怒る中国の「文化窃盗」、その3つの要因
CHINA “STEALS” KOREAN POET
コロナ禍を受けて中国人の入国禁止を訴える韓国の人々(2020年1月、ソウル) AP/AFLO
<国民的詩人の国籍からキムチの出自まで、韓国文化が中国の「文化帝国主義」のターゲットになっている>
中国最大の検索エンジンである百度(バイドゥ)が、韓国で論議を呼んでいる。日本の植民地支配下にあった朝鮮の詩人で独立運動家でもあった尹東柱(ユン・ドンジュ)を、「中国人」としたためだ。
誠信女子大学(ソウル)の徐坰徳(ソ・ギョンドク)教授によると、百度のオンライン事典「百度百科」は修正の依頼を何度も受けているのに、今も尹を中国籍の朝鮮族(中国国内の朝鮮系少数民族)として紹介。「誤りだと指摘し、修正させなくてはならない」と、徐はフェイスブックで主張した。
論争の一因は、「朝鮮族」という言葉の解釈が中韓の間で違うことにある。韓国でいう「朝鮮族」は中国の朝鮮系少数民族を指し、朝鮮半島の朝鮮人と区別するために使われる。一方で中国では、民族としての朝鮮人を意味する。
尹が生まれ育った満州は当時、日本の植民地支配下にあった。彼の母語は朝鮮語で、詩も全て朝鮮語で書いた。そのため多くの韓国人は、百度百科の記述を「文化的窃盗」と見なした。
尹は1917年、現在は中国吉林省龍井市の一部である明東村で生まれた。京都の同志社大学で文学を学んだが、朝鮮民族主義の学生団体を組織したとして43年に投獄され、2年後に薬物を注射された後に獄死した。これは生物学的な実験の一環だったともみられている。
死後の48年に詩集『空と風と星と詩』(邦訳・岩波文庫ほか)が出版され、やがて尹は韓国で最も人気のある詩人となった。尹の作品の中心テーマは、日本の支配下で朝鮮人として生きることへの内省だった。名前を日本名に変える5日前には、自身の悔悟をつづった作品「告白」を書いた。
文化を盗みたい3つの理由
韓国で愛国的詩人として尊敬されている尹を中国人とした百度の記述が、論議の的になるのは驚くことではない。韓国国内にはこの件について、政府が中国に対してもっと強気に出るべきだという批判もある。
こうした非難は、中国の文化圏内に韓国を統合しようとする「文化帝国主義」への警戒感と絡み合っている。批判の声は韓服やキムチをめぐる問題で、さらに拡大した。