感染対策の楽観論を砕いたコロナ変異株 免疫仮説の抜本修正必要に
死者はインフルエンザの4倍にも
マーレイ氏によると、南ア型や同様の変異株が急速に広がり続けた場合、次の冬のコロナによる入院数や死亡数はインフルエンザ流行の4倍に高まる可能性がある。これは有効性65%のワクチンがその国の国民の半数に接種されたと仮定しての話だ。米連邦政府によるインフル死者の年間予測に基づくと、最悪の場合は次の冬に米国だけで最大20万人がコロナ関連で死亡する可能性があるとの計算になるという。
マーレイ氏の研究所が現在出している今年6月1日までの予測では、コロナ死者は米国でさらに6万2000人、世界でさらに6万9000人と推定されている。モデルにはこの期間のワクチン接種率の予想や、南ア型とブラジル型の流行見込みを加味している。
専門家の考え方が変わってきたことは、流行がいつ終わるかを巡る各国政府にも影響しており、発表のトーンは慎重になってきている。ワクチン接種を世界最速で進めている国の一つである英国は先週、世界でも最も厳しい部類の移動制限措置について、解除はゆっくりになるとの見通しを示した。
米政府が予測する生活様式の正常化の時期も、何度も後ずれしている。最近では昨年夏の終わり頃からクリスマス時期になり、さらに今年3月ごろに修正された。イスラエルが発行する免疫証明書「グリーンパス」は、コロナ感染から回復した人やワクチン接種を済ませた人に与え、持っていればホテルや劇場の利用を認める仕組みだが、有効期間は半年しかない。免疫がどれだけ長く持続するか、よく分かっていないからだ。
米ジョンズ・ホプキンズ大学公衆衛生大学院のステファン・バラル氏は「コロナ流行の緊急事態局面が過ぎるというのは一体何を意味するのか」と問い掛ける。一部専門家はワクチン接種や厳しい制限措置を通じて感染が完全に根絶され得るかどうかを論点にしているが、バラル氏は目標をもっと控えめに、しかし意味がある内容に置いている。「私が想定するのは、病院が満杯でなくなり、集中治療室もいっぱいでなくなり、人々が悲劇的な死を迎えなくて済む状態だ」と説明する。
コロナは当初から「動く標的」
そもそも最初から、コロナウイルスは専門家にとって、いわば「動く標的」だった。
流行の初期にも、有力専門家らはコロナウイルスが一定の地域や季節に一定程度、繰り返し流行が続いていく可能性があり、「完全に消え去ることはないかもしれない」と警告していた。これは世界保健機関(WHO)の緊急対応責任者マイク・ライアン氏の意見でもあった。
彼らには解明しなければいけないことがたくさんあった。ウイルスに対抗できるワクチンの開発は可能か。このウイルスはどれだけ急速に変異していくのか。高い実施率で予防接種を行えば地域全体をほぼ感染から防ぎ続けられる「はしか」のようなものか。あるいは毎年世界で何百人もが感染するインフルエンザのようなものか――といった疑問だ。
昨年の大半を通じて、多くの科学者はコロナウイルスが感染力を高めたり致死性が強まったりする大きな変異をしなかったことに、意外感を覚え、胸をなで下ろしてもいた。