最新記事

感染症対策

EU、まさかのロシア製ワクチン「スプートニクV」入手を検討 域内生産も視野か

2021年3月17日(水)13時04分

そもそもワクチンメーカーとの交渉は通常何カ月もかかり、その後にようやく供給契約を結ぶ。EU当局筋はこの問題について、域内で協議しスプートニクVの開発者にアプローチするかどうかについては、まだ何も決定していないと話した。

それでもEU政府間で何らかの議論が行われたということは、スプートニクVを巡る大きな方針変更を示唆する。EUは何か月も同ワクチンについて疑念を表明してきた。データ不足を理由に挙げ、同ワクチンをロシア政府の外交政策宣伝の道具と呼んできた。

フォンデアライエン欧州委員長は2月17日、ロシア国内の接種が低調なのに数百万回分をロシアが輸出するのはなぜかと疑問を投げ掛けた。公式データに基づくとロシアでの接種率はEUよりも低い。

先週にはミシェルEU大統領も、スプートニクVを宣伝するロシアの動機に疑念を示した。同氏は、中国とロシアという「われわれの価値観よりも望ましくない価値観」を持つ体制に惑わされるべきでないと主張。「彼らはワクチンを他国に供給するため、的をかなり絞りつつも広く宣伝される活動を組織している」とした。EUならば、ワクチンを宣伝目的に使うことなどないとも訴えた。

ロシア政府と中国政府からミシェル氏の発言について公式な反応は出ていない。ただ、ロシアは以前、EUがコロナワクチンを政治問題化していると批判したことがある。

ドラギ発言の重み

しかし、EU内でのスプートニクVについての論調は既に変わり始めている。きっかけは2月2日に公表された同ワクチンの臨床試験データだ。有効性が92%とされ、アストラゼネカのワクチンの有効性を上回り、ファイザー・ビオンテック連合やモデルナのワクチンの有効性に近いことが査読済みのデータで示された。

2月25日にはさらに新たな展開があった。ドラギ新イタリア首相が、初参加したEU首脳会議でコロナワクチンについて、域内の接種と生産ペース加速を求める強い姿勢を示したのだ。

欧州中央銀行(ECB)前総裁のドラギ氏は、ユーロを最悪の危機から救ったとしてEU内で高く評価されている人物だ。同氏は他の域内首脳に対し、EUはワクチン購入を増やさなければならず、その中には域外からのワクチンも含まれていいと表明。ワクチン生産の拡大も訴えた。

イタリアは伝統的にもロシア政府に対する柔軟姿勢を支持する国ではあるが、今や、スプートニクVを検討するようEU加盟各国政府の背中を強く押そうとしている。3月10日のEU外交当局者会合に出席した外交筋によると、イタリア代表はEUにスプートニクVを含め、ワクチン供給を拡大するよう要請した。

これについて、イタリア側のスポークスマンはコメントを控えている。

イタリアの保健当局者は3月に入ってスプートニクVについて質問されると、「何らかのワクチンに効果があり規制当局が安全だとわれわれに言うのであれば、(そのワクチンを開発したのが)どこの国であるか私はほとんど気にしない。イタリアはロシア政府と協調する用意がある」と断言した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、4.4万件増の23.6万件 季

ビジネス

中国経済運営は積極財政維持、中央経済工作会議 国内

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ビジネス

EU理事会と欧州議会、外国直接投資の審査規則で暫定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 10
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中