EU、まさかのロシア製ワクチン「スプートニクV」入手を検討 域内生産も視野か
そもそもワクチンメーカーとの交渉は通常何カ月もかかり、その後にようやく供給契約を結ぶ。EU当局筋はこの問題について、域内で協議しスプートニクVの開発者にアプローチするかどうかについては、まだ何も決定していないと話した。
それでもEU政府間で何らかの議論が行われたということは、スプートニクVを巡る大きな方針変更を示唆する。EUは何か月も同ワクチンについて疑念を表明してきた。データ不足を理由に挙げ、同ワクチンをロシア政府の外交政策宣伝の道具と呼んできた。
フォンデアライエン欧州委員長は2月17日、ロシア国内の接種が低調なのに数百万回分をロシアが輸出するのはなぜかと疑問を投げ掛けた。公式データに基づくとロシアでの接種率はEUよりも低い。
先週にはミシェルEU大統領も、スプートニクVを宣伝するロシアの動機に疑念を示した。同氏は、中国とロシアという「われわれの価値観よりも望ましくない価値観」を持つ体制に惑わされるべきでないと主張。「彼らはワクチンを他国に供給するため、的をかなり絞りつつも広く宣伝される活動を組織している」とした。EUならば、ワクチンを宣伝目的に使うことなどないとも訴えた。
ロシア政府と中国政府からミシェル氏の発言について公式な反応は出ていない。ただ、ロシアは以前、EUがコロナワクチンを政治問題化していると批判したことがある。
ドラギ発言の重み
しかし、EU内でのスプートニクVについての論調は既に変わり始めている。きっかけは2月2日に公表された同ワクチンの臨床試験データだ。有効性が92%とされ、アストラゼネカのワクチンの有効性を上回り、ファイザー・ビオンテック連合やモデルナのワクチンの有効性に近いことが査読済みのデータで示された。
2月25日にはさらに新たな展開があった。ドラギ新イタリア首相が、初参加したEU首脳会議でコロナワクチンについて、域内の接種と生産ペース加速を求める強い姿勢を示したのだ。
欧州中央銀行(ECB)前総裁のドラギ氏は、ユーロを最悪の危機から救ったとしてEU内で高く評価されている人物だ。同氏は他の域内首脳に対し、EUはワクチン購入を増やさなければならず、その中には域外からのワクチンも含まれていいと表明。ワクチン生産の拡大も訴えた。
イタリアは伝統的にもロシア政府に対する柔軟姿勢を支持する国ではあるが、今や、スプートニクVを検討するようEU加盟各国政府の背中を強く押そうとしている。3月10日のEU外交当局者会合に出席した外交筋によると、イタリア代表はEUにスプートニクVを含め、ワクチン供給を拡大するよう要請した。
これについて、イタリア側のスポークスマンはコメントを控えている。
イタリアの保健当局者は3月に入ってスプートニクVについて質問されると、「何らかのワクチンに効果があり規制当局が安全だとわれわれに言うのであれば、(そのワクチンを開発したのが)どこの国であるか私はほとんど気にしない。イタリアはロシア政府と協調する用意がある」と断言した。