EU、まさかのロシア製ワクチン「スプートニクV」入手を検討 域内生産も視野か
欧州連合(EU)はロシアが自国産の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」を世界に供給する「キャンペーン」について、表向きには取り合っていない。しかし、域内での接種計画が難航する中、水面下で確保に動き始めている。写真はアルゼンチンの空港に到着したスプートニクV、1月撮影(2021年 ロイター/Agustin Marcarian)
欧州連合(EU)はロシアが自国産の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」を世界に供給する「キャンペーン」を展開していることについて、「好ましくない体制」が仕掛けている宣伝工作だとして表向きには取り合っていない。しかし、域内4500万人への接種計画が難航する中、EUは水面下でスプートニクVの確保に動き始めている。
EUを代表しワクチンメーカーとの交渉に当たる外交筋によると、EU加盟政府の中にはEUとしてのスプートニクV開発者との協議開始を検討する動きがある。EUは加盟4カ国から、そうした作業を始めるよう要請が来ているという。
イタリアが国内生産を検討
国単独ベースではハンガリーとスロバキアが既にスプートニクVを購入。チェコも関心を示している。EU当局者によればイタリアが、同国バイオ医薬品レイテーラがローマ近郊に所有する同国最大のワクチン製造設備を使って、スプートニクVの生産を検討している。
EUでは、離脱したばかりの英国が接種ペースを加速し、移動制限措置を緩和しつつあるのに対し、域内の接種が遅れていることに批判が強い。イタリアは制限措置の強化を迫られ、パリ地域の病院は収容能力が限界に近づいている。ドイツは感染第3波に警戒を呼び掛けた。
これまでにEUは西側ワクチンメーカー6社と契約し、さらに2社との協議にも入っている。認可済みのコロナワクチンは4種類に上る。しかし、工場の生産遅延によって接種計画は足を引っ張られ、一部加盟国は独自の解決策を模索している有様だ。
EUがスプートニクVも承認すれば、ロシアにとっては外交的勝利と言える。EUとの通商は何年も手足を縛られた状態になっていたからだ。ロシアによるウクライナのクリミア併合やウクライナ東部紛争への介入を巡って、EUが制裁を導入してきたことが背景にある。ロシア政府にいかなる勝利を与えることにも絶対に反対な国々と、EUがロシア政府と協調できることを示すのに賛成する国々とで、域内に亀裂が入るリスクもある。
露ワクチンへの疑念に変化
別のEU当局者によると、イタリアの当局者はある会合でレイテーラ工場について、同社以外の企業のワクチン製造拠点として使う可能性に言及した。レイテーラは30%を政府が出資し、自社のコロナワクチンを開発中だ。
ワクチンメーカーとのEUの協議を調整する欧州委員会の報道官は、欧州医薬品庁(EMA)がスプートニクVを承認したとしても、加盟国から同ワクチン開発者と協議を始めるようにとの要請は来ていないと述べている。同ワクチンを2国間契約で注文した国々が、EUの合同調達に関心を持つかも明らかではない。