最新記事

教育

成績不良が非行に繋がる割合は、70年代より今のほうが高い

2021年3月18日(木)15時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

その状況は、一般少年と非行少年の数値を照らし合わせることで可視化できる。2009年の一般少年の成績不良率は35.6%、非行少年のそれは79.0%だ。よって成績不良者からの非行者の出現確率は、2.22という数値で測られる(79.0/35.6=2.22)。成績不良群の生徒が非行化する確率は、通常の期待値の2倍以上という意味だ。

この数値を3つの成績群について計算し、時代変化が分かるグラフにしてみる<図2>。非行少年の中での割合が、一般少年の中での割合の何倍かだ。ジェンダーの差も見るため、男子と女子で分けている。

data210318-chart02.png

成績良好群と普通群からの輩出率が下がっているが、不良群からの輩出率が上がっている。この傾向は男子より女子で顕著だ。

ポストモダンとか価値観の多様化とか言われれるようになり、学業成績に重きを置かない生徒が増えている、という指摘を聞いたことがあるが、現実はグラフの通りで、学校の成績は未だに子どもの自我を強く規定し、その良し悪しが非行に影響している。近年では、それが強まってさえいる。

高等教育は「ユニバーサル段階」

調査の始点の1977年では、大学進学率(18歳人口ベース)は26.4%だったが、終点の2009年では50.2%まで高まっている(2020年は54.5%)。米社会学者のマーチン・トロウ流に言うと、高等教育のユニバーサル段階に突入して久しい。大量進学体制が強まり、上級学校への非進学という選択肢は取りにくくなっている。

こうした現状では、成績不振が自尊心剥奪や将来展望閉塞を介して非行につながる、という因果経路が太くなるのは道理だ。ちなみに前に書いたように、小・中学生の自殺動機の首位は「学業不振」となっている(「日本の子どもの自殺率が2010年以降、急上昇している」本サイト、2019年3月13日掲載)。

少子化により、親や周囲からの期待圧力が強まっていることもある。人口の年齢構成を見ると、1950年では「子ども1:大人2」だったが、2050年では「子ども1:大人9」の社会になる。100年間の変化はあまりにも大きい。子ども1人に対し、大人9人の口から小言が言われるのだが、真面目な子ほどそれに翻弄され、自我を傷付けてしまう。大人が子どもを圧し潰している事態に他ならない。

フランスの思想家のルソーが、子どもの発達に先んじた余計な教育を施すべきではない、放っておくのがよいという「消極教育論」を唱えたことは有名だが、この思想は含みを持っている。(無茶な)早期受験が進行している状況を見ると、なおのことだ。 「子どもは放っておけば育つ」。こういう構えも持ちたいものだ。

<資料:内閣府『非行原因に関する総合的研究調査』(2010年3月)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中