最新記事

医療

子どもの自閉症と関連のある母体由来の自己抗体が特定される

2021年2月2日(火)16時50分
松岡由希子

MaximFesenko-iStock

<米カリフォルニア大学デービス校の研究チームは、自閉症スペクトラム障害の診断と極めて関連の高い母体由来の自己抗体を特定した......>

自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因については依然として完全に解明されていないものの、1990年代以降、子どもの自閉症と胎児の脳のタンパク質を標的とする母体由来の抗体との関連を示す研究論文がいくつか発表されてきた。母体由来の自己抗体に関連した自閉症スペクトラム障害(MAR ASD)は、自閉症の約20%を占めるとみられる。

神経の発達に必要なタンパク質を標的とする自己抗体がある

米カリフォルニア大学デービス校のジョディ・ファン・デ・ウォーター教授を中心とする研究チームは、2013年7月、発達段階にある胎児の脳のタンパク質を標的とする母体由来の抗体群を特定。自閉症スペクトラム障害と診断された子どもの母親のうち23%に、神経の発達に必要なタンパク質を標的とする自己抗体があることを示した。

2018年3月には、「妊娠中の母親の自己抗体が発達中の胎児の脳に反応し、その発達を変化させることがある」との研究成果も発表している。

さらに、ファン・デ・ウォーター教授らの研究チームは、機械学習(ML)を用いた分析により、自閉症スペクトラム障害の診断と極めて関連の高い母体由来の自己抗体を特定し、2021年1月22日、学術雑誌「モレキュラー・サイカイアトリ」で研究論文を発表した。

研究チームは、自閉症児の母親450名と健常児の母親342名から採取した血漿試料を用いて、発達段階にある胎児の脳で多くみられる8つのタンパク質(CRMP1・CRMP2・GDA・NSE・LDHA・LDHB・STIP1・YBOX)への反応を調べ、機械学習アルゴリズムにより、自閉症スペクトラム障害の診断と特に関連のある母体由来の自己抗体パターンを分析。

約1万件のパターンから関連性の高い3つのパターンとして、「CRIMP1とGDA」、「CRIMP1とCRMP2」、「NSEとSTIP1」が特定された。なかでも、CRIMP1とGDAへの自己抗体がある母親は、自閉症の子どもを持つ確率が31倍と最も大きく、CRIMP1とCRMP2への自己抗体がある母親では26倍、NSEとSTIP1への自己抗体がある母親では22.8倍、その確率が高くなっている。また、いずれのパターンにおいても、CRIMP1への反応があると、子どもの自閉症がより重度となる確率が高まることもわかった。

「100%の精度で初めて特定できた」と発表

研究論文の責任著者であるファン・デ・ウォーター教授は、この研究成果について「機械学習により、自閉症スペクトラム障害のリスクの潜在的バイオマーカーとして、母体由来の自己抗体に関連した自閉症スペクトラム障害のパターンを100%の精度で初めて特定できた」と評価。これらのバイオマーカーを活用することで、母体由来の自己抗体に関連した自閉症スペクトラム障害の早期診断やより効果的な介入に役立つと期待されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中