最新記事

地磁気

「4万2000年前の地磁気逆転が地球環境を大きく変化させた」との研究結果

2021年2月22日(月)18時10分
松岡由希子

南北の磁極が入れ替わる「地磁気逆転」がこれまでに何度か発生している...... ttsz-iStock

<南北の磁極が入れ替わる「地磁気逆転」によって地球の大気がどのように変化したかが初めて示された...... >

地磁気(地球が持つ磁気)は、地球に降り注ぐ宇宙線や太陽風を遮る「保護シールド」だ。地磁気は絶えず変化しており、南北の磁極が入れ替わる「地磁気逆転」がこれまでに何度か発生している。

最近の大規模な地磁気逆転「ラシャンプ地磁気エクスカーション」は4万1000〜4万2000年前に約800年にわたって起こったとみられるが、これが地球にどのような影響を及ぼしたのかは不明であった。

地磁気が弱まり、気候変動が起きた......

豪ニューサウスウェールズ大学(UNSW)と南オーストラリア博物館の研究チームは、ニュージーランド北部の湿地帯で4万年以上保存されているカウリマツの年輪を分析。

「ラシャンプ地磁気エクスカーション」での大気中放射性炭素レベルの詳細な記録を作成し、この地磁気逆転によって地球の大気がどのように変化したかを初めて示した。一連の研究成果は、2021年2月19日、学術雑誌「サイエンス」で発表されている。

この記録によると、地磁気が弱まって地磁気逆転が起こった時期に、大気中放射性炭素が大幅に増加していた。宇宙線が継続的に降り注ぐことで放射性炭素が地球に供給されることから、年輪に残された放射性炭素は、この時期、地球に放射性炭素が多くもたらされていたことを示すものといえる。

また、当時の地磁気は、従来、現在の強度の約28%にまで弱まったと考えられてきたが、この記録によると、「ラシャンプ地磁気エクスカーション」が起こる前の約4万2200年前に地磁気が最も弱くなり、その強度は現在の0〜6%にすぎなかったこともわかった。地磁気がほぼなくなり、地球の「保護シールド」が失われたことにより、宇宙線が遮られることなく降り注いで地球の大気中の微粒子をイオン化し、イオン化された大気がオゾン層を破壊して、世界中で気候変動が引き起こされたと考えられる。

氷床や氷河が拡大、ネアンデルタール人が絶滅

この記録を、すでに氷床コアなどで確認されている「ラシャンプ地磁気エクスカーション」の時期の記録と比較したところ、北米で氷床や氷河が拡大し、風帯や熱帯低気圧の仕組みが大きく変化した時期とも一致した。この時期は、豪州本土やタスマニア島で大型動物相(メガファウナ)が同時に絶滅。ネアンデルタール人が絶滅する一方、世界各地の洞窟で壁画などが突然現れた。

近年、北磁極の移動速度が加速している

近年、北磁極の移動速度が加速しており、一部の科学者は懸念を示している。研究論文の筆頭著者でニューサウスウェールズ大学のアラン・クーパー教授は「今、同様の地磁気逆転が起こったら、現代社会に甚大な影響をもたらすだろう。地球に降り注ぐ宇宙線が送電線や衛星ネットワークを破壊してしまう」と警鐘を鳴らしている。

matuoka0212b.jpg北磁極は移動している credit/nature


Magnetic Declination from 1590-2020

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏サービス部門PMI、2月は44.5 17か月ぶり

ビジネス

フィリピン中銀、銀行預金準備率引き下げ 3月下旬か

ワールド

イスラエル首相、人質遺体返還巡りハマス非難 「代償

ワールド

韓国、38年までに脱炭素電源7割目標 大型原子炉2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中