最新記事

ISSUES 2021

「現代版スターリン主義者」習近平が踏み出した相互不信と敵意の道

CHINA’S FATEFUL YEAR

2021年1月15日(金)17時40分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

習近平の中国では香港の「一国二制度」が生き延びることはできない XINHUA/AFLO

<コロナで焼け太り、香港は鎮圧──自らの国際的信用を毀損し、西側との対決路線を選んだ中国が再び和解する可能性は? 特集「ISSUES 2021」より>

中国と諸外国の関係が劇的に変わった節目の年の一つ。顧みれば、2020年はそう評されることだろう。
20201229_20210105issue_cover200.jpg
言うまでもないが、中国の最初の節目は1949年。この年の10月1日、毛沢東が中華人民共和国の建国を宣言した。以来、中国は旧ソ連を筆頭とする東側陣営に属し、アメリカを軸とする西側諸国と敵対することになった。

次の節目は30年後の1979年.鄧小平が大胆な改革に着手し、アメリカを公式訪問して西側諸国へと門戸を開放した。毛の圧政ですっかり疲弊した中国を、国際社会は温かく迎え入れた。

そして2020年、振り子は戻って再び相互不信と敵意の時代が始まった。決定的だったのは中国で起きた2つの事態。新型コロナウイルスの感染爆発と、香港に対する国家安全維持法の導入だ。

このウイルスが人間社会に侵入したのは2019年11月頃の湖北省武漢と思われるが、瞬く間に国境を越えて拡散し、世界中で経済活動を麻痺させた。初期段階で感染を封じ込められなかった背景には、官僚の隠蔽体質や厳しい検閲制度といった中国固有の事情があった。ウイルスが未知のものだったこともある。

それでも習近平(シー・チンピン)国家主席は2020年1月上旬までに事態を把握していたはずだ。しかしすぐには積極的な対策を取らず、貴重な時間を無駄にした。迫り来る危機を認識して強権を発動し、武漢全域のロックダウン(都市封鎖)などに踏み切ったのは同月下旬。当局は毛の言葉を借りて事態を「人民戦争」と呼び、見えない敵との総力戦を命じた。

ここでは中国共産党の強みが発揮され、習は「禍を転じて福となす」ことができた。お粗末な対応で災禍を招いたドナルド・トランプ米大統領とは好対照だ。結果、国内の感染を抑え込んだ中国は主要国・地域で唯一、2020年にもプラス成長を実現できた。

しかし長い目で見れば、今回のコロナ危機で西側諸国は脱中国に大きく舵を切ったのではないか。世界規模で経済活動が寸断された結果、西側諸国はいやでも気付かされた。工業製品の製造拠点としてもPPE(医療用マスクなどの個人防護具)の供給源としても中国に依存し過ぎている現実に。実際、2018年にアメリカとEUが輸入したPPEの半数弱は中国製だった。

現代のスターリン主義者

経済の先行きが不透明で、サプライチェーンの変更には膨大なコストがかかることを考えれば、今すぐ欧米系企業の中国大脱出が始まるとは考えにくい。しかし貿易面でも投資面でも、彼らの腰が引けるのは間違いない。その影響がどこまで深く、いつまで続くかは予測できない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 7
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中