ブレグジットで高まる「統一アイルランド」への期待
Time for a United Ireland
1969年8月の「ボグサイドの戦い」から始まった北アイルランド紛争は98年の和平合意成立まで続いた PETER FERRAZ/GETTY IMAGES
<イギリスEU離脱の混迷とコロナ禍で、南北分割のデメリットと統一のメリットが明らかに──統一を訴える主張には、アイルランド全島から共感が寄せられている>
あなたがこの記事を読む頃には、ブレグジット(イギリスのEU離脱)に伴う通商交渉に合意が成立しているかもしれない。あるいは、成立していないかもしれない。
この「合意に基づく離脱か、合意なき離脱か」という議論は、英国民が2016年の国民投票でブレグジットを選んで以来、ずっと続いてきた。
あのとき北アイルランドとスコットランドが、EU残留を選んだことを忘れてはならない。それなのにテリーザ・メイ前首相とボリス・ジョンソン首相は、2つの地域の声を完全に無視してブレグジットを推し進めてきた。
それはブレグジットの中核には、「小英国主義」つまりイングランドの尊大な自意識と近視眼的な世界観があるからだ。そこで南北アイルランドの利益が考慮されたことは一度もない。
ようやくアイルランドに注目が集まったのは、1998年の北アイルランド包括和平合意が、ブレグジットによって脅かされる可能性が明らかになったときだ。
以来、EU加盟国であるアイルランドと、イギリスの一部である北アイルランドの間にハードボーダー(厳格な国境管理)が出現するのを防ぐために、アイルランド政府とEU当局者、そして米議会が懸命に努力してきた(その背後にはシン・フェイン党の働き掛けがあった)。
だが、北アイルランドがイギリスの一部である限り、ブレグジットはアイルランドにマイナスの影響しかもたらさないだろう。1998年の和平合意は一段と脅かされ、合意を受け、警察活動に人権を反映させるため定められた欧州人権条約に準ずる英人権法も廃止されそうだ(同法は、北アイルランド紛争における英軍の行動について、英政府の責任を問う意味合いもある)。
ブレグジットは、近年拡大してきたアイルランドと北アイルランドの協力関係(医療、エネルギー、環境、インフラなど156分野にわたる)も試練にさらすだろう。
これまでの経験から、アイルランド人は英政府が約束を守らないことを知っている。ジョンソンも例外ではない。だから今回EUとどんな合意を結ぶのであれ、ハードボーダーを回避することはないし、アイルランドの利益を守ることも、1998年の和平合意を維持することもないだろう。
ブレグジットをめぐる論争でプラス面が1つあったとすれば、アイルランド統一の関心が高まったことだ。
それはどのような形になるのか。どうすればアイルランドは、リパブリカン(強硬なアイルランド統一派)、ロイヤリスト(強硬なイギリス支持派)、ユニオニスト、カトリック、プロテスタント、そしてこうした伝統的な分類に当てはまらない多くの人が共存できる場所になれるのか。