最新記事

教育

飛び級、落第を許さない日本の「横並び」主義が生む教育の形骸化

2021年1月6日(水)16時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

参考までに、OECD加盟国以外の国も含め、標準学年に在籍している15歳生徒の率を見てみよう。<表1>は、78カ国を高い順に並べたものだ。

data210106-chart02.jpg

日本は100.0で、標準より下、ないしは上の生徒は1人もいない。落第、飛び級ゼロの純粋年齢主義(履修主義)の国だ。しかし数値には幅があり、アメリカは73.6%、中国(表1中のB-S-J-Z(China)、4都市・省〔北京、上海、江蘇、浙江〕)は58.2%で、10の国では50%を割っている(表1右下)。発展途上国が多いが、おそらく児童労働の影響と思われる。

日本でも高校段階では落第は少しだけあるが、義務教育では皆無だ。制度上は、小・中学校でも「平素の成績」を考慮して進級を決めることになっているが(学校教育法施行規則57条)、年齢主義規範が強く保護者の理解も得にくいので、現実には無条件で進級させられている。ヨーロッパでは「内容をきちんと修得してないのに進級させるのは可哀想」とされるが、日本では「理解が不十分だからと言って、下の学年の子と机を並べさせるのは可哀想」となる。

日本の年齢主義を変える

その結果、就学の形骸化の問題が起きていて、授業内容を理解している子の割合は、小学校で7割、中学校で5割、高校では3割という「七・五・三」現象も指摘されている。

しかし日本でも、「個別最適な学び」の観点から、修得主義の要素を入れざるを得なくなっている。その策は、落第や飛び級といったハードなものだけではない。特別な時間において前学年の内容を反復学習させる、長期休暇中にICTでの補修を行うなど、やり方は色々ある。

しかし落第や飛び級についても、斬新的な実験はされてもいいだろう。さしあたり、教育課程特例校において実験をしてみてはどうだろうか。学校だけでなく企業社会にも根付いている、日本的年齢主義を変える端緒になるように思う。

<資料:OECD「PISA 2018 Results (Volume V): Effective Policies, Successful Schools」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米GM、1200人超削減へ EV関連工場で=現地紙

ワールド

ロシア特使「和平への道歩んでいる」、1年以内に戦争

ビジネス

カナダ中銀、2会合連続で0.25%利下げ 利下げサ

ビジネス

イスラエル、ガザ停戦協定の履行再開と表明 空爆で1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 7
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 8
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 9
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中