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北朝鮮『愛の不時着』見たら公開裁判、処刑も......北朝鮮「韓流新法」の中身
韓国から流れてくるラジオ放送の聴取などの取り締まりが強化される KCNA-REUTERS
<韓流コンテンツをターゲットにした刑法改正で、北朝鮮当局は「恐怖政治」を強化する>
Netflixは14日、「2020年 日本で最も話題になった作品 TOP10」を発表した。それによると、第1位は韓国ドラマの『愛の不時着』である。また、TOP10のうち計5作品を韓国ドラマが占めており、日本における韓国ドラマの視聴数は昨年と比べて6倍以上にもなったとしている。まさに今が「第4次韓流ブーム」と言われる所以だが、これとまるで逆方向へと爆走しているのが金正恩党委員長の北朝鮮だ。
今月4日の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会で採択された「反動的思想・文化排撃法」。来年1月下旬に開催予定の最高人民会議常任委員会では、この法律に合わせて刑法の改正が行われるもようだ。
今まで法律の内容については明らかになっていなかったが、韓国デイリーNKの取材の結果、その輪郭が徐々に見えてきた。ひとことで言って、これは「韓流取締法」だ。
この法律がメインターゲットとしているのは、以下の3つだ。
◯外国のラジオ放送の聴取、録音、流布
◯外国の不純動画、映像、書籍、その他出版物の流入と流布
◯国の承認を受けていない音楽のコピーと流布
冒頭にラジオを持ってきたことは、海外から送信され、不特定多数が聴取できるラジオ放送について、当局が相当の危機感を持っていることがうかがえる。
現在、米国と韓国の政府系団体、民間団体、宗教団体などが運営する10局以上が北朝鮮向けの放送を行っている。また北朝鮮向けではないものの、公共放送のKBS、半官半民のMBC、民放のSBSなど、ソウル首都圏だけで9つもの放送が、電波が遠くにまで届くAM放送を行っている。それに加え、中国の吉林省延辺朝鮮族自治州からも朝鮮語のAM放送が行われるなど、北朝鮮は「電波銀座」の様相を呈している。
ラジオのチューニングをするだけで、世界の様々な情報がリアルタイムに得られる状況を放置すれば、体制の崩壊に繋がりかねないということだ。
<参考記事:バレたら一巻の終わり...北朝鮮の女性兵士が葬られた「禁断のラジオ」>
次に、動画や音楽についての定めは、韓流ドラマ・映画、バラエティ、K-POPをターゲットにしたものだろう。
複数人がこれらを利用できるように流布させた首謀者は公開裁判を受けさせ、視聴した者も含む同調者も法的に処罰するとの内容が盛り込まれている。韓流が大量に流通している現状を考えると、当局はこの法律に従って公開裁判を頻繁に行い、必要なら公開処刑も行って「恐怖政治」を強化することとなるだろう。
<参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...>
テレビ、ラジオの受信機、DVDプレーヤー、パソコン、携帯電話など、文化コンテンツなどの利用に欠かせない機器の登録も今回の法律に明示された。国家保衛省(秘密警察)傘下の中央27局の検査を受け、技術検査票が貼られたものに限って合法的に使用できることになっているが、今回の法律は、未承認の機器は補償なしで没収すると規定している。
国の承認を受けていない画像、電子書籍、音楽を携帯電話に保存する行為、写真館で使われているパソコン、コピー機、印刷機を使い、違法な文書、書籍を印刷する行為も、法的処罰の対象となる。これは思想、情報統制に加え、聖書など宗教書籍の統制の意図もあるものと思われる。
今回の法律には、国境地域で国が許可していない生活用品、雑貨、電化製品の密輸、発売、流通も法的処罰対象であると明示されているが、これは韓国製品に狙いを定めたものだ。高級品で通っている韓国製品を使用することで、国民が韓国に対する「幻想」を抱くようになるとの判断に基づいたものだろう。
法律は『不滅の歴史』『不滅の嚮導』『不滅の道のり』など、金氏一家を偶像化する目的で制作されたシリーズ小説のコピー、保存、配布も禁じている。これらの作品には、対外向けプロパガンダに使用されるものもあれば、国内だけの閲覧が認められているものもあるが、後者が外国に流出する事態が頻発していることが背景にある。
すでに法律に関連した取り締まりが始まっている。北朝鮮では、法の導入当初は法を広く知らしめ、恐怖心を植え付けるため、公開裁判、処刑などみせしめとなる行為を繰り返すが、その後は取締担当者がワイロを受け取り、違反をもみ消すという流れが繰り返されてきた。さて、今回はどうなるか、動向が注目される。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。