最新記事

日本社会

子育て年齢の上昇で日本社会の何が変わる?

2020年12月17日(木)13時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

あと1つは、子どもの社会化に関わることだ。子どもにとっては、家庭内で体の弱った高齢者に接する機会が増える(40歳以降の出産の場合、子が10歳の時に父母は50代で、祖父母は80代になる)。父母が祖父母を介護する姿を目にするだけでなく、自分が介護の担い手になることもあり得る。いわゆる「ヤングケアラー(18歳未満の介護者)」だ。

2016年の総務省『社会生活基本調査』によると、調査日に家族の介護・看護をした小学生は0.2%、中学生は0.2%、高校生は0.5%で、これを全児童生徒数にかけて合算すると3万6326人となる<表1>。

data201217-chart01.png

これはヤングケアラーの見積もり数だが、奇しくも毎日新聞(2020年3月21日)の推計値(介護を担う全国の15〜19歳の子ども、3万7100人)と近い。今の日本には、おおよそ4万人弱のヤングケアラーがいると見ていい。

晩産化により、親や祖父母の介護を任される子どもは多くなっているだろう。共稼ぎや一人親世帯が増えているので、下の兄弟の世話をする子もそうだ。ヤングケアラーの存在が注目されていることは理解できる。

家族のケアの経験は、子どもの人間形成の上でプラスに作用する。だがそれも程度問題で、学業に支障が及ぶとなると考えものだ。度の過ぎたケアで、勉強もできないほど疲れ切っている子はいないか。地域の人間関係が濃かった時代では、隣人が異変に気付くこともできただろうが、現在ではなかなかそうもいかない。日々子どもと接する教師は、異変を察知して、行政や支援機関等につなぐ役割を期待される。なお埼玉県では、ヤングケアラーの介護や学業を支援する条例も今年制定された。

逆ピラミッドの年齢構成の社会では、若い世代にも負荷がかかるようになるが、子どもの健全な成長を妨げないよう、親も含めた社会全体が対策を講じなければならない。

<資料:総務省『国勢調査』
    総務省『社会生活基本調査』(2016年)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 

ワールド

アングル:トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる

ワールド

モスクワで爆弾爆発、警官2人死亡 2日前のロ軍幹部

ビジネス

日経平均は4日ぶり小反落 クリスマス休暇で商い薄く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中