最新記事

生物

カリブ海の深海で熱気球のような新種の有櫛動物が発見される

2020年12月1日(火)17時30分
松岡由希子

Duobrachium sparksae. (NOAA)

<アメリカ海洋大気局(NOAA)の研究チームは、プエルトリコ近くの深海3900メートルで、有櫛動物(クシクラゲ類)に属する新種を発見した...... >

アメリカ海洋大気局(NOAA)の研究チームは、カリブ海北東プエルトリコから40キロ沖の水深3910メートルで、有櫛動物(クシクラゲ類)に属する新種を発見した。2020年11月18日に学術雑誌「プランクトン・アンド・ベントス・リサーチ」で発表された研究論文では、長さ約6センチの熱気球のような体に30センチ超の触手が2本伸びるユニークなこの新種を「Duobrachium sparksae」と名付けている。

有櫛動物はクラゲ類よりも標本を採集が難しい

有櫛動物は、これまでに100〜150種が同定されている。水を漕ぐときリズミカルに波打ち、光の反射で明るい色に光る櫛のような8つの繊毛の列を持つのが特徴だ。肉食性で、小さな節足動物や様々な種の仔魚を食べる。外形はクラゲと似ているが、刺胞動物に属するクラゲ類とは異なる。

この新種は、アメリカ海洋大気局の研究チームが標本を採集せずに、高精細度の動画のみを用いて新たな種を同定した初めての例だ。

調査船オケアノス・エクスプローラーが2015年4月9日から30日までプエルトリコと米領バージン諸島近くで深海探査を行った際、遠隔操作型無人潜水機(ROV)「ディープ・ディスカバラー」は比較的狭いエリア内で3度にわたってこの新種を撮影することに成功した。


「ディープ・ディスカバラー」が撮影した動画は高精細度で、1ミリ未満の構造も測定できる。そのため、研究チームは、研究室の顕微鏡よりもその形態を詳しく観察することができた。この新種は水深約4000メートルのエリアに生息するため、サンプルの採集が難しい。

010-ctenophore-2.jpg

Digital illustrations of Duobrachium sparksae. (Nicholas Bezio).

研究論文の責任著者であるアレン・コリンズ博士は「『ディープ・ディスカバラー』にサンプルを採集する機能はないが、仮にその機能があったとしても、ゼラチン状の生物は保存しづらいため、標本にする時間がほとんどないだろう。この観点でいえば、有櫛動物はクラゲ類よりも難易度が高い」と述べている。

Anatomical_diagrams.jpg

Digital illustrations of Duobrachium sparksae. (Nicholas Bezio).

長い触手を海底につけ、海底から一定の高度で移動していた......

動画を用いた観察によって、この新種のユニークな行動も確認されている。長い触手を海底につけ、海底から一定の高度を保ちながら、熱気球のように移動していた。研究論文の筆頭著者のマイケル・フォード博士は「海底に触手がくっついていたのかどうかは定かでないが、個体が海底に触れているようにみえた」と述べている。

この新種が深海生態系でどのような役割を果たしているのかについては、まだ明らかになっていない。フォード博士は「海底付近に生息する他の有櫛動物と同様の役割を担っているのではないか」と考察している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、日本などをビザ免除対象に追加 11月30日か

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

ゴールドマン、24年の北海ブレント価格は平均80ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中