最新記事

紛争

「90年代体制」の崩壊──西サハラ、ナゴルノカラバフから香港まで

COLLAPSE OF THE ‘90S DEALS

2020年12月18日(金)17時50分
ジョシュア・キーティング

対立の発端は、アゼルバイジャンもアルメニアもソ連の一部だった1980年代にさかのぼる。アルメニア系住民が多いナゴルノカラバフは、アゼルバイジャン領内の自治州だったが、自分たちのアルメニアへの移管を要求。それをきっかけに一連の民族虐殺が始まり、1991年のソ連解体後に国家間の戦争に発展した。両国の戦闘は2万5000人以上の死者を出し、約100万の民間人(主にアゼルバイジャン人)が移住を余儀なくされることになった。

ロシアが仲介した停戦により、1994年に戦闘は終結。ナゴルノカラバフは半独立の(しかし国際的には承認されていない)飛び地となり、周辺のいくつかの地域もアルメニアの支配下に置かれた。

その後26年間、停戦は何度も破られたが、今年9月末にアゼルバイジャンが軍事攻勢に出ると、ロシアやトルコなどの地域大国を巻き込む本格的な戦闘に発展した。

結果はアルメニアの明白な敗北だった。アルメニアは停戦条件として、ナゴルノカラバフ以外の実効支配地域を引き渡すことを要求され、今度はアルメニア人が大量に移住することになった。これに反発して、アルメニア国内では大規模な反政府デモが起きている。これで長く続いた紛争が終わるとは考えにくい情勢だ。

アフリカ北西部沿岸の西サハラでも11月13日、この地域の領有権を主張するモロッコが国連管理下の緩衝地帯で軍事作戦を開始。これを受けて、独立派のポリサリオ戦線が「武力闘争の再開」を発表した。

この地域は旧宗主国スペインの撤退を受けて、1975 年にモロッコが占領した。現地に住むサハラウィ人の民族自決運動であるポリサリオ戦線は、占領に抵抗して戦い、1991年に国連の仲介で停戦が成立。停戦の条件として、この地域の最終的な帰属を決める住民投票が行われることになったが、一度も実施されなかった。

根本的な解決を先送りしたツケ

現在、領土の大部分はモロッコの支配下にある。何万人ものサハラウィ人がアルジェリアの難民キャンプで、世界で最も長く続いている、最も無視されてきた紛争の1つが解決されるのを待っているが、本格的な軍事衝突が再燃しそうな雲行きだ。

1993年のイスラエルとパレスチナのオスロ合意、98年の北アイルランド包括和平合意(ストーモント合意)、97年のイギリス統治終了後の香港の自治を確認した「一国二制度」の合意など、他の90年代の政治的妥協も、ここへきて揺らいでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中