インチキ陰謀論「Qアノン」がばらまく偽情報を科学は止められるか
CAN SCIENCE STOP QANON?
さらに面倒なことに、時間の経過に伴って個々のコミュニティーは変化するし、それぞれのメンバーが単独で、または集団で別のプラットフォームに移動することもある。「車が渋滞を避けて走るように、新たな規制を迂回するためにプラットフォームを渡り歩くフォロワーがいる」と、ジョンソンは言う。
だから、どこか1カ所で彼らを抑え込んでも意味がない。活動が分散化されているため、個々のメンバーを特定するのは「鍋に湯を沸かしたとき最初に泡になって気化する分子を見つける」ような作業になる。
そうした泡の一つ一つは無力だが、集まると鍋のふたを吹き飛ばすほどの力になる。しかし、鍋の中の水温が沸点に近づき、鍋肌や鍋底に小さな泡が現れた段階で泡をつぶせば沸騰を防ぐことができる。それと同じで、Qアノンも大勢のフォロワーが集まって「沸騰」する前に、まだ小さな泡のうちに見つければ効果的につぶせるかもしれない。その具体的な方法を探るのが、今のジョンソンの研究テーマだ。
Qアノンのメンバー集団は、特定の問題について互いに共通する考え方を重視する一方、宗教であれ政治であれ、意見が合わない可能性のある話題は無視する傾向がある。そこが「仲間割れ」を誘うチャンスかもしれない、と彼は考える。「意見の対立が生じる可能性のある問題に注意を向けさせることができれば、彼らを分裂させ、集団の強みをそぐことができるかもしれない」
追い付かない理解と法整備
いずれにせよ、まだネット上の偽情報拡散を止める特効薬は見つかっていない。その原因の一端は、まだ全容解明に必要なデータを全て検証できていないことにある。SNSのプラットフォーム企業は、概してデータの開示に消極的だ。「実に不満だ」と、メンツァーは言う。「巨大なジグソーパズルを解かねばならないのに、こちらはまだ、そのピースの全てを見てもいない」
データの開示に最も消極的なのはフェイスブック。だが遅まきながら開示に応じるプラットフォームもある。例えばグーグル傘下のツイッターは、トラフィックの解析に必要なデータを科学者たちが入手できるようなツールを準備している。
それでも偽情報を退治するのは難しいだろう。なにしろ相手は(ウイルス同様)常に変化している。「科学者が事態を把握し、政治家が対策を法制化する前に相手は変化してしまう」とメンツァー。「だから現時点での知見は(将来の対策に)たいして役立たない」
コロナ禍と、それにまつわる偽情報対策の経験から、情報疫学者が学べる教訓も多くはない。「コロナ禍で人々がファクト(を見分けること)の大切さに気付くのを期待していたが」と、キャバナーは言う。「残念ながら陰謀論はひどくなるばかりで、まだ底が見えない」
そうであれば、情報疫学も本家の疫学と同様、もっと現実的な目標を設定したほうがいい。「感染症は根絶できない」と陸軍将校のトランメルは言う。「疫学者はそれを承知で、感染を制御(共存)可能なレベルに抑える方策を探っている」
偽情報もなくならないが、せめてその拡散を制御したい。そうすれば世界はずっと安全になる。
<2020年11月10日号掲載>
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