最新記事

情報科学

インチキ陰謀論「Qアノン」がばらまく偽情報を科学は止められるか

CAN SCIENCE STOP QANON?

2020年11月4日(水)17時40分
デービッド・H・フリードマン

magw201104_Q4.jpg

対策に消極的なザッカーバーグCEOへの抗議行動 LEAH MILLIS-REUTERS

さらに面倒なことに、時間の経過に伴って個々のコミュニティーは変化するし、それぞれのメンバーが単独で、または集団で別のプラットフォームに移動することもある。「車が渋滞を避けて走るように、新たな規制を迂回するためにプラットフォームを渡り歩くフォロワーがいる」と、ジョンソンは言う。

だから、どこか1カ所で彼らを抑え込んでも意味がない。活動が分散化されているため、個々のメンバーを特定するのは「鍋に湯を沸かしたとき最初に泡になって気化する分子を見つける」ような作業になる。

そうした泡の一つ一つは無力だが、集まると鍋のふたを吹き飛ばすほどの力になる。しかし、鍋の中の水温が沸点に近づき、鍋肌や鍋底に小さな泡が現れた段階で泡をつぶせば沸騰を防ぐことができる。それと同じで、Qアノンも大勢のフォロワーが集まって「沸騰」する前に、まだ小さな泡のうちに見つければ効果的につぶせるかもしれない。その具体的な方法を探るのが、今のジョンソンの研究テーマだ。

Qアノンのメンバー集団は、特定の問題について互いに共通する考え方を重視する一方、宗教であれ政治であれ、意見が合わない可能性のある話題は無視する傾向がある。そこが「仲間割れ」を誘うチャンスかもしれない、と彼は考える。「意見の対立が生じる可能性のある問題に注意を向けさせることができれば、彼らを分裂させ、集団の強みをそぐことができるかもしれない」

追い付かない理解と法整備

いずれにせよ、まだネット上の偽情報拡散を止める特効薬は見つかっていない。その原因の一端は、まだ全容解明に必要なデータを全て検証できていないことにある。SNSのプラットフォーム企業は、概してデータの開示に消極的だ。「実に不満だ」と、メンツァーは言う。「巨大なジグソーパズルを解かねばならないのに、こちらはまだ、そのピースの全てを見てもいない」

データの開示に最も消極的なのはフェイスブック。だが遅まきながら開示に応じるプラットフォームもある。例えばグーグル傘下のツイッターは、トラフィックの解析に必要なデータを科学者たちが入手できるようなツールを準備している。

それでも偽情報を退治するのは難しいだろう。なにしろ相手は(ウイルス同様)常に変化している。「科学者が事態を把握し、政治家が対策を法制化する前に相手は変化してしまう」とメンツァー。「だから現時点での知見は(将来の対策に)たいして役立たない」

コロナ禍と、それにまつわる偽情報対策の経験から、情報疫学者が学べる教訓も多くはない。「コロナ禍で人々がファクト(を見分けること)の大切さに気付くのを期待していたが」と、キャバナーは言う。「残念ながら陰謀論はひどくなるばかりで、まだ底が見えない」

そうであれば、情報疫学も本家の疫学と同様、もっと現実的な目標を設定したほうがいい。「感染症は根絶できない」と陸軍将校のトランメルは言う。「疫学者はそれを承知で、感染を制御(共存)可能なレベルに抑える方策を探っている」

偽情報もなくならないが、せめてその拡散を制御したい。そうすれば世界はずっと安全になる。

<2020年11月10日号掲載>

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中