最新記事

国連

多様性と平等を重視するはずの国連高官は白人ばかり

THE U.N.’S DIVERSITY PROBLEM

2020年11月12日(木)17時40分
コラム・リンチ(フォーリン・ポリシー誌記者)

スイスのレマン湖畔にある国連の欧州本部 DENIS BALIBOUSE-REUTERS

<本部機関の上級ポストは欧米人に独占され、途上国出身者には平等なチャンスが提供されていない──世界で最も多様性に富んだはずの組織内部で不平等の実情が明らかに>

誰もが平等で、人種や民族で差別されない世界を目指す。それが国連の使命。だからこそ世界各地の民族独立運動を応援し、アメリカでは黒人の公民権運動を、南アフリカではアパルトヘイト(人種隔離政策)反対闘争を支援してきた。

しかし今、人種的な正義を求める運動が世界中で盛り上がるなかで、国連内部のお粗末な実情が明らかになってきた。職員、とりわけ幹部職の採用・登用に当たって、途上国の出身者に平等なチャンスが提供されていないという。

193の加盟国を抱える国連は、世界で最も多様性に富んだ組織の1つと言える。しかし批判的な人たちに言わせれば、実は国連自体が多様性を欠いている。

国連の職員で最も多いのは今もアメリカ人だ。ドナルド・トランプ米大統領は国連におけるアメリカの影響力低下に繰り返し不満をぶつけてきたが、昨年4月に公表された職員構成に関する報告によれば、今も全職員の6.75%に当たる2531人がアメリカ人だ。イギリスやフランス、イタリア、スペインなどの欧州諸国からも、人口比で見ると不当に多くの職員が採用されている。

途上国出身の人も現場レベル、とりわけコンゴ民主共和国やマリのような紛争地帯では多数が採用されている。しかし待遇がよくて地位も高い本部職員(ジュネーブの欧州本部職員を含む)に関しては、圧倒的に欧米系が多い。

最悪なのは自然災害や紛争などによる非常時の人道支援を指揮する人道問題調整事務所(OCHA)だ。OCHAは1991年に国連総会の決議で設立され、国連の各種機関の支援活動を統括している。

差別主義は終わっていない

OCHAの職員採用については、欧米出身の幹部職員からも批判がある。アングロサクソン系の人ばかりが登用されており、まるで新植民地主義の国のようだと。エジプト出身のブトロス・ブトロス・ガリやガーナ出身のコフィ・アナンが国連事務総長に起用された例はあるが、それはシンボリックな意味しか持たない。アフリカの出身者にとって、国連機関の「ガラスの天井」は今も厚くて割り難い。

筆者らが入手した内部資料によると、OCHAではアフリカ諸国出身者が全体のポストの23%を占めているが、本部に勤める幹部職員はほとんどいない。アジアや中南米、東欧諸国の出身者はさらに少なく、それぞれ全体の16%、4%、3%にとどまる。

OCHAの指揮系統を見ると、上層部を占めるのは欧米人ばかりだ。過去13年間、OCHAを率いてきた4人はいずれもイギリス政府の元高官。しかも南米の英領ギアナ(現ガイアナ)出身の黒人女性で英上院の院内総務を務めた後にOCHAの代表となったバレリー・エイモス(在任2010〜15年)を除けば、全員が白人男性だ。

OCHAの活動先の大部分はアフリカやアジアの国々だが、その上級職員の大多数はOCHAの予算に多額の拠出をしている欧米諸国の人で占められる。世界各地にあるOCHA現地事務所のトップも、約54%は欧米諸国の出身者が占める。アジアやアフリカ、中南米、東欧圏の出身者を合わせたより多い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中