最新記事

韓国社会

韓国、0歳児が特許出願 過熱する受験競争、スペック重視の行き着いた先は......

2020年11月18日(水)21時00分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

オンライン出願が生んだ弊害

ところで、その未成年者たちが登録した特許の内容だが、大人でも理解が難しいIT技術の特許や、ARなどの新技術を駆使したものが多い。もちろん誰が見ても未就学児が開発したとは到底思えない技術であり、これらは明らかに受験スペック用の特許申請である。では、なぜ本人が開発した発明ではないのに特許出願が可能になるのだろうか?

韓国の特許出願はウェブサイトからオンラインでできる。ただ、この出願項目に登録者が本当に発明にかかわったのか確認する記載はなく、いうなれば誰でも出願できるようになっている。まさか、誰も本人以外が登録するとは考えもしなかったことから、注意書きや年齢制限もない。さらに、人数制限もないため、特許出願にグループ開発したとして、自分の子供の名前を一緒に入れる研究員もいるという。

もちろん、なかには特許取得後に問題になっている事例もある。今年8月には、忠清北道のある私立大で、教授が自分の研究に参加もしていなかった息子の名前を共同特許者に入れて出願していた。教授の息子は、後にその特許取得を反映した受験スペックで短大の医科大学に入学したのだが、入学後これは息子本人の実力ではないと問題になり裁判沙汰にまで発展した。結局、2審で懲役10カ月執行猶予2年の刑が言い渡されている。

一連の問題について韓国特許庁は「発明者について年齢で差別することはしない」という回答を繰り返しているという。

アメリカでは本人以外の出願は刑事罰に

韓国以外の国の特許申請はどのようになっているだろうか? 諸外国の多くは、発明者本人以外の登録は厳禁であり、アメリカなどは「本人の発明ではないと発覚した場合、刑事罰に値する」という誓約書にサインしなければならない場合もある。

日本の特許法によると、発明者でない者やその発明について特許を受ける権利を承継していない者が出願し、特許を受けることは第49条6号で禁止されている。また、万が一権利を承継していない者が申請した場合は、第123条1項6号により無効になると記載されている。このことから、日本や外国では韓国のような「裏技」を使って子供の受験スペックを上げることは不可能となっている。

「少しでも良い大学に、そして良い就職先に」と願う親の気持ちが生んだマル秘テクニック。親が子のより良い将来を思う気持ちは、韓国だけに限らず万国共通だが、ここまでいくと特許制度の悪用と言えるだろう。

近い将来、特許による受験スペックのレベルアップは何の意味ももたなくなってしまうだろう。本当の発明天才児が、名前だけの発明家たちに埋もれてしまう前に、審査の強化と制度の見直しを行うべきである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン氏「グローバリゼーションは時代遅れ」、新興

ビジネス

5月実質賃金2.9%減、5カ月連続 1年8カ月ぶり

ビジネス

インド、米自動車関税に対抗し報復関税 WTOに通知

ワールド

関税引き上げ8月1日発効、トランプ大統領「複数のデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中