最新記事

環境

SDGs優等生の不都合な真実 「豊かな国が高い持続可能性を維持している」という嘘

SDGS NOT REALLY SUSTAINABLE

2020年10月8日(木)16時30分
ジェーソン・ヒッケル(人類学者)

さらに、エコロジカルな負荷に関する評価の大半が国内だけを対象としていて、国境を越えた貿易の影響を考慮していないという問題がある。

例えば目標11の大気汚染に関する項目を見ると、概して富裕国の点数は高い。だが先進諸国は1980年代以降、汚染源となる産業部門の工場を次々と国外に移転させており、結果として汚染も国外に追いやっている。

森林破壊や魚の乱獲についても同じことが言える。こうした問題の多くは貧困国で起きているが、その原因は裕福な国々の過剰消費にある。途上国は先進国から環境破壊を輸入し、結果としてSDGインデックスの順位を下げているわけだ。

国連はSDGsの見直しを

インフラの整備などは、もちろん国内ベースで評価すればいい。しかし国内での消費による環境負荷を正しく評価するには、国外で生じた環境負荷もきちんと計算に入れなければならない。

それをしていないから、富裕国ほどSDGインデックスの点数が高くなり、彼らが国外でもたらしているダメージは見過ごされてしまう。これではいけない。いくら開発面で高い点数を得ても、地球環境に対して及ぼした破壊的な影響をそれで相殺することは許されないはずだ。

実はSDGインデックスの作成者側もこの問題には気付いており、評価手法に関する脚注で(簡単に)触れてはいる。だが結果として算出方法が見直されることはなく、環境負荷の問題は軽視されたままだ。

つまるところ、持続可能な開発の判定は地球規模で行うしかない。SDGインデックスで上位にランクされる国は、生態系の破壊をもたらすことなく実現できる開発のモデルを体現していなければならない。

残念ながら現状はそうなっていない。裕福な国々がSDGsの模範として持ち上げられているが、リーズ大学の研究が示すとおり、現実には彼らこそ問題の一部なのだ。

国連は今こそSDGインデックスを見直すべきだ。まずはエコロジカルな負荷を消費ベースで計算し、国外での発生分も考慮に入れること。そして環境への負荷と開発の成果を別々に評価し、それぞれの実態を正しく把握することだ。

そうすればデンマークやドイツのような国々が開発面で達成したことを正当に評価しつつ、一方で彼らが国外で生態系の破壊を加速している実態を認識できるだろう。

見直しが終わるまで、SDGインデックスなどに頼るのはやめるべきだ。地球環境の危機は深刻だ。いま地球にはどんな負荷がかかっていて、その責任は誰にあるのか。それをもっと正確に、もっと正直に示さないと議論は始まらない。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年10月13日号掲載>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米国に抗議 台湾への軍用品売却で

ワールド

バングラデシュ前首相に死刑判決、昨年のデモ鎮圧巡り

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機100機購入へ 意向書署名とゼ

ビジネス

オランダ中銀総裁、リスクは均衡 ECB金融政策は適
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 5
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中