最新記事

環境

SDGs優等生の不都合な真実 「豊かな国が高い持続可能性を維持している」という嘘

SDGS NOT REALLY SUSTAINABLE

2020年10月8日(木)16時30分
ジェーソン・ヒッケル(人類学者)

SDGsはより良い未来を構築するために各国が目指すべき目標だが JAMES WASSERMAN/GETTY IMAGES FOR GLOBAL GOALS-UNITED NATIONS

<国連が目指す持続可能な開発の指標で、各国の達成度の評価が実情と違い過ぎる。地球上の誰もがスウェーデン並みの消費をすれば、生態系や環境への負荷は現在の3倍になる>

地球と人の未来を守るため、2030年までに達成すべき17の目標を掲げた持続可能な開発目標(SDGs)が国連で採択されてから5年。その実現に向けた「行動の10年」が始まっている。動植物を含めた「生き物の世界」と人間主導のグローバル経済の共存共栄に向けた具体的努力が問われるのだが、そもそも各国は今、どんな位置に着けているのか。

それを知る指標として、よく用いられるのがSDGインデックスだ。米コロンビア大学の経済学者ジェフリー・サックスが考案したもので、SDGsの達成度を国ごとに評価する標準的なツールとして重宝されている。そのランキングを見ると、上位に並ぶのはスウェーデンやデンマーク、フィンランド、フランス、ドイツなどの豊かな欧州諸国。だが、本当にこれらの国はSDGs優等生なのだろうか。

実を言うと、このインデックスは開発の持続可能性を測るものではない。このインデックスで上位に入っている国々の一部は、地球環境への負荷という点から見れば、むしろ最も持続不可能な状況にある。

いい例がスウェーデンだ。SDGインデックスでスウェーデンの評価は84.7点と第1位。しかし世界中の生態学者が以前から指摘しているように、この国の1年間のマテリアルフットプリント(消費する天然資源の総量)はアメリカと同程度で、国民1人当たり約32トンに上る。これは世界でもかなり悪い水準だ。世界平均は現状で1人当たり約12トン。ちなみに持続可能なレベルは1人当たり約7トンとされる。

スウェーデンの現状は持続可能なレベルを5倍近く超えており、もしも地球上の誰もがスウェーデン並みの消費をするようになれば、世界中の資源消費量は年間ざっと2300億トンになる。これは現時点で全人類が消費している資源(言い換えれば地球の生態系や環境に与えている負荷)のおよそ3倍に相当する。

実態は開発優先、環境軽視

SDGインデックスで3位のフィンランドはどうだろう。フィンランドの二酸化炭素排出量は国民1人当たり年間約13トンで、石油大国サウジアラビア並みの水準だ。ちなみに中国の国民1人当たり二酸化炭素排出量は約7トンで、インドは2トンに満たない。世界中がフィンランド並みに化石燃料を消費したら、温暖化で地球は人が住めなくなる。

magf201008_SDGsRanking.jpg

本誌2020年10月13日号47ページより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

11月ショッピングセンター売上高は前年比6.2%増

ビジネス

中国の海外ブランド携帯電話出荷台数、11月は128

ワールド

日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 売買代金は今

ワールド

タイ11月輸出、予想下回る前年比7.1%増 対米輸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中