最新記事

東南アジア

タイの民主化デモ隊、議会や王宮ではなくドイツ大使館にデモ行進したワケは?

2020年10月27日(火)20時12分
大塚智彦(PanAsiaNews)

<軍事政権を掌握するプラユット首相の退陣など民主化を求めるデモ隊は新たな段階に突入して......>

民主化要求を掲げた学生らを中心にしたデモ集会が連日続くタイのバンコクで10月26日、デモ隊の一部がドイツ大使館に向かった。

デモ隊が「プラユット首相退陣、国会解散、憲法改正」と同時に要求として掲げている「王政改革」で現ワチラロンコン国王が長期滞在を続けているのがドイツであることからドイツ大使宛の要望書を直接手渡すことが目的のデモ行進となった。

ドイツの協力が「王政改革」に不可欠

学生らを中心とした若者のデモ隊は、26日午後5時過ぎからバンコク市内中心部からドイツ大使館に向い、警察官が厳重に固める大使館前で職員に要望書を直接手渡した。

要望書は1年の大半をドイツに滞在しているワチラロンコン国王(67)がドイツでタイの国事行為をしているかどうかを確認するために「国王のドイツ出入国記録の開示」を求めているという。

地元メディアによると応対したドイツ大使館員は「デモ隊の声を真摯に聞く」と答えたとしており、デモ隊代表は「ドイツ政府がタイ市民の要望に応えることを望みたい」と期待を示したという。

デモ隊が要求している「王室改革」ではドイツ滞在中にタイの国事行為をワチラロンコン国王が行っていたことが判明すれば問題であり、「憲法改正による王室の有り方検討、改革」の正当性を訴えることができる、としてドイツ政府の協力が不可欠との立場から要望書を提出、協力要請となった。

「BNK48」も批判浴びて謝罪に

一方、デモ参加者や学生がドイツ大使館に向かう際、「ナチスの標章である鉤十字(ハーケンクロイツ)やヒトラーの肖像、ヒトラーのヒゲを模したものなどナチスに関連するTシャツや写真、イラストなどを掲げないように」との呼びかけがネットを通じて行われたという。

タイでは、第二次世界大戦で欧州戦線とはあまり関わりがなく、ナチスによるユダヤ人大量虐殺などの歴史的出来事への関心も薄かったため、過去にナチスドイツやヒトラーに関して国際社会やイスラエルの批判を浴びるトラブルが発生した経緯がある。

2013年、名門チュラロンコン大学の学生がイベントで片腕を挙げるナチス式敬礼をしたことが問題視されたほか、2016年には別の大学のイベントでヒトラーを模した服装で参加した学生が謝罪に追い込まれている。

また2019年にはアイドルグループ「BNK48」のメンバー1人がナチスの鉤十字がプリントされた衣装でテレビ番組に出演。在タイのイスラエル大使館から抗議を受けて謝罪に追い込まれている。

このときは当該メンバーが「歴史への無知が原因でした、許してください」とイスラエル大使に謝罪したとされている。

こうした過去のナチスに関わる悪しき事例は悪意や特定の政治的意図に基づくというより、「無知や誤解に基づく単なるファッションとしての利用」が大半とされている。

タイをはじめとする東南アジアでは、現在もナチスの標章が描かれたワッペンやヒトラーに酷似した人物がビーチで寛ぐイラストのTシャツなどが販売されており、イスラエルや欧米各国、日本ほど嫌悪感や問題意識は高くないのが実情だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 5
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 6
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中