最新記事

中国ダムは時限爆弾なのか

その数333基、世界一のダム輸出国・中国の「無責任」

AN IRRESPONSIBLE DAM BUILDER

2020年10月7日(水)16時45分
譚璐美(ノンフィクション作家)

2013年に完成したガーナのブイ・ダムは生態系に影響を与えたとされる PHOTOSHOT/AFLO

<決壊、ひび割れ、水資源対立......。アフリカ・アジアを中心に各地でダム建設を進める中国だが、この「ダム輸出」は単なる善意の経済支援ではない。本誌「中国ダムは時限爆弾なのか」特集より>

中国は世界のダム建設数第1位の「ダム輸出王国」である。

環境保護団体インターナショナル・リバーズの2014年のデータによれば、中国が国外で建設したダムの総数は333基に上り、その半数以上がアジア(57%)、特に東南アジア(38%)に位置している。次にアフリカ(26%)が多く、さらに南米(8%)、ヨーロッパ(7%、主に東欧)などにも進出している。
20201013issue_cover200.jpg
東南アジアの「中国製ダム」は最多のミャンマー(32%)に次いでラオス(22%)、フィリピン(13%)、マレーシア(11%)、ベトナムとカンボジア(各8%)、インドネシアとブルネイ(各2%)に建設されている。

メコン川流域はダム建設が世界で最も盛んな地域だが、06~11年に中国は総発電量2729メガワットのダム建設事業に資金提供を行っている。

サハラ砂漠以南のアフリカでは、10~15年に実施された電力開発事業のうち3割を中国が請け負ったが、なかでも水力発電(すなわちダム建設)が多い。この地域で10~20年に中国が増やした発電量のうち、水力発電が49%を占めている。

中国が建設するダムは8割以上が大型ダムだ。00年以降、OECD(経済協力開発機構)諸国がダム建設から撤退するのと入れ替わるように増加し、14年から習近平(シー・チンピン)国家主席が推進する国家プロジェクト「一帯一路」戦略によって拍車が掛かった。

ひび割れ、決壊、水資源対立

だが、この「ダム輸出」は単なる善意の経済支援ではない。

中国がアジアやアフリカに投資する目的は、相手国の電力不足を解消して経済発展を手助けするのと引き換えに、資源を確保したり軍事的な拠点を造ったりすること。中国の政治的利益に直結している。

また、往々にして新興国の汚職体質と結び付き、相手国の発展ニーズを考慮せず、粗製乱造のダムを建設することも少なくない。

南米のエクアドルで中国が16年に建設したコカコドシンクレア・ダムでは、わずか2年で約7600カ所のひび割れが生じた。同国では中国から総額190億ドルの融資を受け、石油などで返済する契約を交わして、橋や道路、ダムなどを造ったが、契約当時の副大統領や高級官僚が相次いで汚職容疑で逮捕された。

中央アジアのウズベキスタンでは今年5月、東部のサルドバ貯水池にあるダムが嵐で穴が開いて決壊した。台湾の報道によれば、中国資金をめぐり汚職疑惑も取り沙汰されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アマゾン販売の中国製品がCPI上回る値上

ビジネス

大企業の業況感は小動き、米関税の影響限定的=6月日

ビジネス

マスク氏のxAI、債務と株式で50億ドルずつ調達=

ワールド

米政府、資源開発資金の申請簡素化 判断迅速化へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中