最新記事

人体

ヒトが進化している証拠? 前腕に動脈を3本持つ人が増えている

2020年10月12日(月)18時00分
松岡由希子

2100年までに大部分の人が正中動脈を持つようになる...... Wikimedia

<成人になっても正中動脈を保持している人が明らかに増えていることがわかった...... >

ヒトは現在も独自に進化し続けている----。オーストラリアの研究チームがこれを示唆する研究成果を明らかにした。

正中動脈は、前腕や手に血液を供給する主血管であり、ヒトの初期発生で形成されるが、妊娠8週あたりで退歩し、橈骨(とうこつ)動脈と尺骨(しゃくこつ)動脈がこの役割を担うようになる。このため、ほとんどの成人には正中動脈がないが、19世紀後半以降、成人になっても正中動脈を保持している人が明らかに増えていることがわかった。

「2100年までに大部分の人が正中動脈を持つようになる」

豪フリンダース大学とアデレード大学との共同研究チームが2020年9月10日に学術雑誌「ジャーナル・オブ・アナトミー」で発表した研究論文によると、2015年から2016年までに51〜101歳で死亡したオーストラリア人の上肢78本のうち、33.3%に相当する26本で正中動脈が見つかった。

Human-Forearm.jpg

正中動脈のスケッチ Credit: Prof. Dr. Hab. Maciej Henneberg, University of Zurich

また、研究チームは、これまでの研究論文を分析。1880年代半ばに生まれた人のうち正中動脈を保持していたのは約10%であったが、20世紀末までにその割合が約30%に増えていた。研究論文では、一連の研究成果を「人体の内部構造における小進化的変化のひとつを示すものだ」と位置づけている。

研究論文の筆頭著者でフリンダース大学のティーガン・ルーカス博士は「正中動脈を保持する人の割合が短期間で増えている。これは進化だ」と述べ、その原因として「正中動脈の発達に関与する遺伝子の突然変異や妊娠中の母親の健康問題が考えられる」と指摘。また、「この傾向が継続すれば、2100年までに、大部分の人が成人になっても正中動脈を持つようになるだろう」と予測している。

「正中動脈によって、血液の供給量が増える」という利点

正中動脈が保持され続けることで、手首の内側で末梢神経が圧迫され、手指のしびれや痛み、親指の脱力が起こる「手根管症候群」のリスクが高まる可能性がある。その一方、研究論文の責任著者でアデレード大学のマチェイ・ヘンネベルグ教授は「正中動脈によって、血液の供給量が増える」との利点を指摘している。

時とともにヒトの解剖学的構造が変化している例としては、この研究成果のほか、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の研究チームが2019年4月に発表した研究論文で「膝関節の後外側のファベラ腓骨靭帯内にある種子骨『ファベラ』を持つ人が1900年時点からこの100年で3.5倍に増えている」ことが示されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米陸軍、ドローン100万機購入へ ウクライナ戦闘踏

ビジネス

米消費者の1年先インフレ期待低下、雇用に懸念も=N

ワールド

ロシア、アフリカから1400人超の戦闘員投入 ウク

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、11月速報値は約3年半ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中