最新記事

医療

効果上がるアメリカのリモート診療 コロナ禍による規制緩和が活用後押し

2020年9月23日(水)19時58分

病床数に余裕があるとしても、資格のあるスタッフを見つけるのは難しい。ジョージワシントン大学の研究者らによれば、サウスカロライナ州を含む43の州は、高度な訓練を受けた、いわゆる集中治療専門医が不足する状況にある。同大学のミュラン医療労働公正研究所のパトリシア・ピットマン所長によれば、この秋、新型コロナと季節性インフルエンザが重なることで入院患者数がピークに達すると予想されるなかで、人手不足はますます深刻化する可能性があるという。

「遠隔医療が理想的だとは誰も言っていないが、恐らく最も悪くないオプションの1つだ」とピットマン所長は言う。「専門医が誰もいないとかヘリで患者を輸送するという状況よりも、明らかに優れている」

政策支援、企業の株価も急騰

2017年に行われた調査では、米国内の病院の約3分の1は、重症患者のために公式の遠隔医療プログラムを利用していると答えている。複数の研究によれば、遠隔医療は、医学的なエビデンスに支えられたベストプラクティスの促進によって、また合併症の抑制を通じて、ICU患者に恩恵をもたらす可能性があることが分かっている。

医師たちは、今回のパンデミックにおいては、個人用防護具の節約や医療従事者のウイルス曝露の抑制という点で遠隔医療が役に立ったと話している。

とはいえ、不都合が生じる可能性もある。医師があまりにも多くの患者をまとめて監視しようとすれば、不適切な判断が生じ、医療過誤にまで至る可能性さえある。一般的に遠隔ICUでは、リモートで参加する医師にも、患者が入院している各々の州において医師免許を持っていることが求められている。

トランプ政権はパンデミックの渦中で遠隔医療に関する規制を緩和し、メディケアによる医療費補てんを拡大した。患者がオンライン受診を支持するなかで、テラドックヘルスなどの遠隔医療企業の株価は急騰した。

カリフォルニア州の大規模医療法人サッターヘルスは、サクラメント及びサンフランシスコのオフィスを拠点に、18カ所の病院にまたがる300床以上のICU病床を管理していると話している。

9月初め、サクラメントにある同医療法人の拠点で、バネッサ・ウォーカー医師が1人の患者の遠隔診察に当たっていた。患者はその日、約25マイル離れたローズビルにあるサッターヘルス系列の病院で人工呼吸器から解放されていた。

ウォーカー医師はヘッドセットとカメラを装着し、患者の名前を画面上でクリックした。「話すのを控えてください。それ以外は問題ありません」とウォーカー医師は患者に告げた。

ウォーカー医師は、カリフォルニア州のセントラルバレー地域にあるサッターヘルス系列の病院で電子ICU部門の医療部長を務めている。デスクには6台のモニターが並び、幅広い情報が表示されている。治療の前後にカルテを閲覧し、患者の肺スキャン画像を複数チェックすることもできる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中