最新記事

誤解だらけの米中新冷戦

中国とのライバル関係を深刻に扱うべきでない理由

STAY CALM ABOUT CHINA

2020年9月16日(水)19時00分
アナトール・リーベン(ロンドン大学キングズ・カレッジ教授〔政治学〕)

magSR200916_China4.jpg

米軍とフィリピン軍の合同演習 ROMEO RANOCO-REUTERS

中国と競争するためには、アメリカ自身の資本主義体制を守り、強化することが不可欠だ。それには、トランプ政権がやってきたように中国製品に追加関税を課すだけでなく、アメリカ国内の経済改革と、インフラおよびテクノロジーへの投資拡大が必要だ。つまり中国と同じ方法で競争する必要がある。

地政学的な影響力拡大に関しては、中国は極めて慎重に進めてきた。インド洋への進出も、少なくとも現時点では、近隣諸国の港湾整備という商業的な性格にとどまっている(ジブチの補給基地は例外だが)。中国海軍のプレゼンスも、アメリカに比べれば取るに足らないものだ。

なによりも中国は、中東でアメリカのつまずきを利用していない。例えば、もし中国がイランに対して大規模な経済援助を行っていたら、この地域におけるアメリカの地位に大きな影響を与えられただろう。

もちろん、中国がそうしていないのは、善意からではなく、世界最大のエネルギー輸入国として、ペルシャ湾岸の安定に大きく依存しているからだ。むやみに中東で影響力を拡大しようとして、アメリカと同じ泥沼にはまってはならないという警戒心もあるだろう。これまでのところ、この賢明なアプローチが、大きく変わったことを示す証拠はない。

中国の慎重な地政学的戦略の唯一の例外は、南シナ海だ。中国はこの海域を自国の裏庭だと考えている。アメリカは、こうした中国の領有権主張を認めてはならない。そのせいで、中国が南シナ海経由の貿易を妨害したりした場合は、アメリカは世界の国々と手を組んで、中国の海洋貿易を阻止するパワーがある。

東アジアでは、アメリカは日本と正式な軍事同盟関係にある。日本は中国の覇権に屈するつもりはなく、アメリカにとっては、この地域で中国の次に重要な国だ。この同盟関係と、日本と韓国の駐留米軍の存在は、当然維持しなければならない。

台湾を守れなくなる日

米中関係で唯一、現実的な危険をはらんでいるのは、台湾だ。もちろんアメリカは、いかなる形であっても、中国の台湾侵攻を容認するようなサインを出してはならない。しかし中国の軍備増強と、台湾との近接性を考えると、いずれ台湾を中国の海上封鎖や侵攻から守るのは不可能になることを、アメリカの安全保障専門家は認める必要がある。そこで目指すべきは、もし台湾に侵攻すれば、政治的・経済的に壊滅的な制裁を受けることは避けられないと、中国に確実に知らしめておくことだ。

このようにアメリカは、現実的かつケース・バイ・ケースで、中国との地政学的競争に対応しなければならない。気候変動や感染症などグローバルな重要課題では、中国と協力することも必要だ。一方、アメリカの国益が関係しない局地的な紛争(中印国境紛争など)には巻き込まれないよう注意するべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中