丸山眞男研究の新たな動向
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<資料のコピーや構想メモから校正刷りまで、物を捨てない性格だった丸山眞男。そのことが丸山眞男研究をこれからも発展させ続ける可能性を持つ>
『リベラリストの肖像』(二〇〇六年)を刊行し、サントリー学芸賞を頂いてから、早くも十四年がたった。この旧著は、原則としてすでに公刊されている丸山の著作・講義録と対談・座談会、そして自筆の手稿や書簡を翻刻した本を資料に用いてまとめたものである。
しかし、書いていたときにはそれだけを参考にしたわけではない。丸山眞男の旧蔵書と、自宅に遺された草稿・ノート・メモの類は、すべて東京女子大学に寄贈され、丸山眞男記念比較思想研究センターの丸山眞男文庫が整理・保存にあたっている。現在ではその多くが公開され、ウェブサイトから簡単に閲覧できるものも少なくない。その整理を手伝うのと並行しながら執筆していたので、未公開の資料を引用することは避けたものの、そのとき見た資料から多くの手がかりを得ながらまとめた本ではあった。
したがって、丸山眞男文庫の資料公開が進んだ暁には、未刊行資料をふんだんに使いながら、新しい目で眺めた評伝が書き直されるべきだ。そう思いながら執筆を進めた本である。
それから十四年のあいだ、一方ではあいかわらず、丸山の公刊著作の一部を読んだだけで、その「敗北」や「憂鬱」を雄弁に語ってしまうような本も世に出ている。しかし他方で、ウェブ上で閲覧できる資料データベースの公開が進み、年報である『丸山眞男記念比較思想研究センター報告』(これもウェブ閲覧可能)には、毎号、未発表の講義草稿や書簡の翻刻が載っている。また書籍としても、『丸山眞男講義録』(東京大学出版会)の別冊が二巻刊行されて、一九五〇年代の講義原稿を簡単に読めるようになった。著作集である『丸山眞男集』についても、年譜を収めた『別巻』の新訂増補版が出て、活字になっていない資料の翻刻から成る『丸山眞男集 別集』全五巻の刊行も進んでいる。
このように、丸山眞男の思想と生涯を検討するにあたって、その基本材料となる資料の量が、この十四年間で大幅に増えている。そのわりには、新しい公開資料・公刊資料を用いた研究書がこれまでほとんどなかったが、二〇一九年にはそうした新たな知見を盛り込んだ重要な研究書が二点、刊行された。西村稔『丸山眞男の教養思想ーー学問と政治のはざまで』(名古屋大学出版会)と、清水靖久『丸山真男と戦後民主主義』(北海道大学出版会)である。
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